2014/12/05

『アボーション・ロード』第7章 地の獄の囚人たち(9)

で、その翌日、わたしはネーミョージンたちと一緒に、エーヤーワディ・デルタのパンタノウ郡のインマー村にいた。路肩に止めたトラックの荷台から村人たちが次々と雑誌や新聞紙の束を運び出してる。村に図書館を作ろうと計画してて、そのためにヤンゴンから積んできたんだ。この日こっちに来たのは、わたしを除けば、ネーミョージンとコ・トージン、そして三十才ぐらいの若い男。名前は忘れちまったが、彼も政治活動家だ。国民民主連盟解放区、つまり国外のNLD支部とコンタクトを取った罪で、まず七年間投獄された。それから今度は政治的な文書を書いたかという罪で死刑宣告。こいつが執行される前に二〇一二年にネーミョージンらと一緒に恩赦で釈放された。無口でいつもニコニコしてる……死と隣り合わせに生きてきたんだ。まったく昨日から俺は何人の元囚人と出会ったのかね。

書物の山はというと、村の集会所みたいなところに運び込まれる。わたしたちがそこに行くと、薄暗い会堂の中で待っていた村人たちがネーミョージンを取り囲む。彼は村の支援者やリーダーたちと言葉を交わし、図書館プロジェクトと教育の重要性について短く演説する。この村はカレン人が多い。わたしはビデオの撮影。村のリーダーのひとりに話を聞く。コ・トージンが通訳してくれる。ソウ・ジュンタンというカレン人で、村を代表して「本当にありがとう!」だって。いやいやわたしが持ってきたわけじゃあないって! と人々の中からひとりの老人がヨロヨロとわたしのところに近づいてくる。で、少しためらったのち思い切ってわたしに話しかける。「おお、日本人よ、支援してくれてありがとう!」 だから、わたしじゃないの! しかしご老体、おかまいなしだ。「わしの名前はタウンセインじゃ! わしは一九六四年一〇月一日から一九七三年四月二〇日まで八年六ヶ月十二日刑務所にいたのじゃ! そのうち三年はココ島じゃ!」 おお、あなたは、あの絶海の孤島、ココ島モルト・ウィスキー! 難攻不落の蒸留所! 「終身刑だけが入るところだ!」とネーミョージンが付け加える。「学生時代と公務員時代に政治活動をしたせいで投獄されたのじゃ! ココ島ではな、わしらは五十三日のハンストをした! その戦いで八人もの仲間が命を失ったのじゃ!」 やれやれ、わたしは明るい外に出ながら呟いた、どこもかしこも元囚人だ!

ネーミョージン
(88ジェネレーション事務所で)

『アボーション・ロード』「第7章 地の獄の囚人たち」についてはまえがきを参照されたい。