2013/09/30

在留特別許可に係るガイドライン

法務省は2009年に「在留特別許可に係るガイドライン」を発表した。詳しくは法務省の該当ページを見れば分かるが,大雑把にいえば日本に長くいる外国人で犯罪歴がない者は,たとえ不法滞在者であっても,在留特別許可を与える,というものだ。

そのため,ビルマの人々でも難民認定申請をしたくない人は,このガイドラインを頼みの綱に入管に申請する場合もある。

そのさいに問題になるのは「長くいる」とはどれ位を指すのか,ということだが,多くの人は20年以上と理解しているようだ。

それはともかく,わたしはこれはむしろ見込みのないやり方で,もし難民としての十分な理由があるならば,難民認定申請をした方がよいという考えを持っている。

ところが,このガイドラインによって在留特別許可を得た人も結構いる,ということを,やはり同じ方面で申請して認められずにそのまま入管に収容されてしまった人から聞いた。

ほんとかね,とわたしは思う。というのも,わたしはその人とまったく同じ理由で今年収容された人を知っているから。それにそんなに簡単にビザがもらえるなら,みんな苦労して難民認定申請などしない。

わたしが疑念を口にしたら,彼は言った。「自民党になってから,みんなもらえなくなったのです!」

わたしにはこれが正しいのかどうか何とも判断できないが,このような見方が流布していることは面白いことだと思った。

チン語テキスト秘話

チン語といってもいろいろあって,しかもお互いに理解できないほど異なっている。

日本のチン人に多いのはチン州のティディムを中心とするチン語(ゾミとも言われる),同じくチン州のハーカーを中心とする言語(ライとも呼ばれる)の話し手で,その他にもミゾという言語を話す人も少数だがいる。

チン民族のリーダーの1人であるタン・ナンリヤンタンさんは今はアメリカにいるが,1990年からずっと日本にいた人だ。彼は1991年に,ゾミ語の教本を日本で自費出版したことがある。

元になったのはアメリカのチン人の言語学者が執筆したもので,チン民族の文化を守るためにタンさんと牧師たちが協力して出したのだという。

全編ゾミ語で書かれ,ゾミ語をまったく知らない人というよりも,ゾミ語話者の教育を目的としているのは明らかだ。イラストも豊富だ。2部構成で160ページある。


しかし,今,この本はタンさんのところに山のように積まれている。

どうしてかというと,本の出版者の中にタンさんの名前があるせいで,ビルマに持ち込むのはヤバいということになったのだという。政治的亡命者であるタンさんとともに名前を記された人々はもしかしたら深刻な危険にさらされるかもしれなかった。


そんなわけで,タンさんたちの試みは無駄になった。

先日アメリカにいるタンさんと話したさい,この教本をどうするかについて尋ねた。ビルマが変わった今ならば,持ち込むのは問題ないだろう。

だが,タンさん,「ああ,もう今はこの本よりももっといい教科書がいくつもあるよ!」

じゃ,数冊残してすべて処分!

身元保証(3)

こうした人が逮捕されると,わたしのところにもその友人などから電話がかかってきたものだ。「どこかの警察署にいるはずだから探してくれ」とか「警察署に電話していわれなき逮捕であることを説明して,釈放させてくれ」とか。

場合によっては警察署まで行って交渉したこともある。チンの女性が逮捕されたときにわたしはチン民族の人と一緒に上野署に行き,あれこれ試したものだ。夜遅くまで上野署のベンチに座っていたことを思い出す。

もっともこうした試みがうまく行くことはまずない。これらの人々は警察で取り調べられ,不法滞在以外に怪しむべきことがないことが知れると数日後に入管に送られ,そこで身元保証人と仮放免申請の日を持つこととなる。

しかし,こうした逮捕は,ビルマ難民に限って言えば今はないので,日本の社会もその分だけ,合理的になったということだろう。

ところで,9月に身元保証の責務から3人分解放されたと書いたが,実を言えば,新たに3人の仮放免申請をしちゃったので,プラマイゼロだ。

身元保証(2)

それはともかく,難民認定申請者にとって身元保証という関係が不要となるのは,その申請者が難民認定されるか,人道的配慮により滞在を許可されるか,あるいは,申請を取り下げて帰国するかしたときだ。

そして,その時が来るまでの間,難民認定申請者は,仮放免延長許可申請書と一時旅行許可申請書を抱えて,署名をもらいに身元保証人のところに定期的に(1〜3ヶ月に1回)やってこなくてはならない。

一時旅行許可申請書というのは入管の所轄地域以外に出るときに必要な文書であり,例えば東京住まいで東京入国管理局に登録されている場合は,東京都から出るときにこの一時旅行許可書を所持していなくてはならないのである。

これを持たずに東京の外に出ると,違反行為となる。運悪く警察に職務質問され,ないのが露見した場合,もしかしたら逮捕されるかもしれない。もっともビルマ難民に関してはそうした話はわたしは聞かないが。

しかし,数年前は,難民申請中であっても警察に逮捕された事例は頻繁にあった。これは,警察にとって重要なのが不法滞在であるかどうかであり,先に述べたように難民認定申請は不法滞在であることをキャンセルするものではないから,申請中であろうとなかろうと,警察はそうした人々をひとし並みに不法滞在者扱いしていたということによる。

品川入管

身元保証(1)

先日もまた,わたしが身元保証しているBRSAの会員が滞在許可をもらったとのことで,彼はFacebookに「とってもうれしい!」と記していた。

わたしも同感で,さらに身元保証人という責任から放免されるのもまたうれしい。これで今月は3人もの身元保証から解放されることとなった。ありがたいことだ。

どうして難民認定申請者に身元保証人が必要になるのかだが,実際のところ,この二つはまったく関係ない。ただ,不法滞在などの理由で入管に収容されている難民認定申請者が仮放免申請するためには身元保証人がいなくてはならないというだけのことだ。

不法滞在というのは,難民であるかどうかとは別の概念であり,難民認定申請者は(たとえ申請以前に不法滞在者であっても)不法滞在者扱いされるべきではないと思うが,少なくとも日本では滞在の合法性が難民性の上位概念となっている。そのようなわけで,難民認定申請者であっても,以前に不法滞在者であった場合には,不法滞在者に分類されるということになる。

これは難民行政が入管行政の一部として行われる限り避けられないことであり,この体制の弊害については多くの人が指摘している。

The Kids are Alright

在日カレン人のキリスト教徒の団体,カレン・クリスチャン・フェローシップ(KCF)が駒込の教会で行っている礼拝が,これまで月1回だったのが最近2回になった。

毎月最後の日曜日の午後に加えて,その前の日曜日にも礼拝が「守られる」ようになったのだ(これは日本のキリスト教の言い回しだ)。 これはとてもよいことだ。

月1回ではなかなか行く機会がなかったが,2回となるとそうでもない。それで,この間の9月22日,時間があったので,5才の娘を連れて教会に行った。

娘を連れて行ったのは,同い年の子がいるためで,退屈しないだろうとの判断であったが,その子は遅れてきて早く帰ったので,少々当てが外れた。結局,娘は退屈し,それどころかわたしまで退屈して礼拝中2人で寝てしまった。しかし,礼拝はビルマ語とカレン語なので,誰もわたしを責めはしないだろうと思う。

カレン民族同盟(KNU)日本代表のモウニーさんも礼拝にいて,説教の内容を親切にも通訳してくれた。しかし,わたしは非常に眠たかったので,彼の親切はまさに「空の空なるかな(伝道の書)」という次第であった。

またモウニーさんはわたしが娘を連れてきたのを喜び,特別なプレゼントをしようとしてくれた。彼はカレン民族の誇りである民族旗のバッジを娘にあげようとしたのである。

娘「大丈夫……」

おい,断るなよ!

娘(もじもじしながらわたしに小声で)「いらない……」

まったくモウニーさんに申し訳ない父娘であった。


これがバッジだ!

2013/09/25

栄光は首に輝く

近頃はいいことなどまず何もないが,それでもこの9月にわたしが保証人をしている2人の難民が難民認定申請の末に日本での滞在許可を得たのはうれしいことであった。

そのうちの1人は,2007年12月に入管に収容されながら難民認定申請をした人で,わたしが仮放免申請をしたのが翌年の7月。そしてビザをもらったのが今年の9月なのだから,結果が出るまで6年近くもかかった計算になる。

しかも彼は最初の申請であり,1回のプロセスにどうしてこんなに時間がかかったのかとわたしは首をひねり,そのせいで頸椎を痛めてしまった。

わたしのところに保証人のサインを求めにくると彼はいつも食事をおごってくれたのだが,その度にわたしは「審査のほうは今どんな感じ?」と尋ねたものだった。

しかし,彼はといえば「まだなんにも連絡ない」と答え,困惑した顔つきで首をひねるばかり……。

彼の頸椎が6年の間無事だったことを喜び,彼とわたしの頸椎に輝かしき前途のあらんことを祈ろうではないか。

BRSA名古屋支部報告会「村人と孤児のビルマ」のご案内

在日ビルマ難民たすけあいの会(BRSA)は,ビルマ民主化をよりいっそう進めるために,ビルマ国内の人々の支援活動を続けています。

今年の2月,BRSAは代表をビルマ国内に派遣し,民主化活動家や社会活動家とともにビルマの人々の生活を向上させるためのプロジェクトを開始しました。

発展し,豊かになりつつあるといわれるビルマ……しかし,BRSAが目にしたのは今なお多くの人々がその「発展」から取り残され,厳しく不安定な生活を送る現状でした。

今回の報告では,そのような人々,特に村人と孤児に焦点をあて,映像と写真による報告会を行いたいと思います。

主な内容は次の通りです。

(1)エーヤワディ・デルタ地域の農村の現状。水の問題と井戸作り。
(2)ヤンゴンの孤児たち。カチン民族の戦争難民たち。
(3)少数民族の和平の行方〜カレン民族とビルマ軍の和平交渉の行方。

いずれも,なかなか見ることのできない映像です。ビルマ,戦争,開発に興味のある方はぜひご参加ください!

(なお,今回の訪問のBRSAの報告もあわせてご覧ください。)

プログラム:写真展示とビデオ上映。1:30から3:30までBRSA会長熊切拓による報告会。

日時:9月29日午後1:00から4:30まで(写真展示とビデオ上映)。報告会は1:30から3:30まで。

場所:名古屋市女性会館第3研修室(行き方

参加費:無料

連絡先:在日ビルマ難民たすけあいの会(BRSA)