前回披露宴の席次について書いたが、この披露宴には結局ぼくはほとんど参加できなかった(ちなみにぼくの席は民主化活動家側)。前の用事で遅れたため、着いた時にはすでに新郎新婦が退場するところ。
退席する招待客の流れに逆らって会場に入ると、司会を務めていたAさんに「乾杯の音頭をお願いしようと思っていたのに」といわれ申し訳ない気持ちでいっぱいになる。前もって聞いていれば時間を調整したのだが。
そこで2次会に参加することにする。会場は高田馬場のビルマ料理屋。入ると、すでに何人かビルマ人がいて、カラオケで歌っている。
歌う気はないが、滅多に見ることもないので分厚い曲目リスト本をぱらぱらめくり、梅宮辰夫の「シンボル・ロック」まであるのを見て感心する。この店には日本語の歌の他に、ビルマ語のカラオケも充実している。
ビルマ人たちはバラバラとやってくる。さっきのAさんが隣に座って、新郎新婦がやってきたら乾杯をお願いします、という。一度しくじった後なので、もちろん、と引き受ける。
しかし、どんな挨拶をすべきか、何を言うべきか。考え出すと緊張する。これから夫婦そろって民主化を・・・・・・今年の選挙には・・・・・・日本の中のビルマ人社会のために・・・・・・こんな堅いのはよくないと思い直し・・・・・・なにか、なにかユーモアを・・・・・・三つの袋が・・・・・・給料袋、おふくろ、池ふくろう、有袋類、布袋寅泰・・・・・・やぶれた翼で。
わっと歓声が上がる。新郎新婦が華やいだ表情で料理屋に入ってくる。入り口近くに座った人々は立ち上がって、拍手したり、はやし立てたり。Aさんがぼくにマイクを渡そうとする。「え、今?」 お店の中は沸き立っていて、グラスを掲げる冷静には今しばしというところ。
「番号をいれてください」
「番号?」
ぼくはそのとき理解する。Aさんが頼んだのは、乾杯の音頭ではなく、長渕剛の「乾杯」だったことに。あわててリストをめくり、探し当てて入力してもらう。Aさんは「これから乾杯を歌います」などと勝手に発表している。そして、よくメロディを知らないぼくは、サビとサビの間を薄氷を踏む思いで歌いきったのだ。
もっともサビの部分はみんな知っていて、大合唱。ビルマ語バージョンもあるようで、後で誰かが歌っていた。