2008/05/20

ある女性の証言(4)

大使館前は大混乱でした。わたしはもみくちゃにされて、押し潰されそうになったのですが、そのとき、警官が身を挺してわたしを守ってくれました。

わたしの友人も同じような経験をして、危うく踏みつぶされるところを警官が引き上げてくれたのだそうです。

彼女が言うには、後でみんなが「悪い警官、悪い警官」と叫んで非難したとき、自分はどうしてもそう叫ぶ気になれなかったとのことでした。

別の人は、警官や機動隊員の中には涙を流していた人もいたと言います。職務上仕方なくわたしたちを手荒に扱ってただけで、本心はビルマ人たちに同情していたというのです。本当かどうかはわかりませんが。

なんにせよ、警官たちはわたしたち活動家を排除するときは容赦ありませんでした。ある女性は警官に足を蹴られ、首根っこをつかまれました。すると不思議なことに全身の力が抜けてしまったそうです。もしかしたら、彼らは首の神経を圧迫して脱力させる技を身につけているのではないか、というのが、彼女の見解です。

さて、わたしはといえば、3〜4人の警官たちに抱えられて、列の外へと運ばれて行きました。「自分で歩けます」と言っても放してくれません。わたしはバッグを落としたのですが、それを拾うことすら許してくれませんでした。

この日は12人が救急車で病院に運ばれましたが、わたしもその1人でした。もともとは救急車に乗るつもりはなかったのですが、警官たちに道路に叩き付けられて腰を痛めた女性に付き添っていたら、なりゆきで救急車に乗ることになってしまったのです。彼女ほどひどくはなかったのですが、わたしもやはり怪我をしていました。

救急車にはひとりの謎めいた救急隊員が乗っていました。車内で彼はわたしたちにいろいろ署名させました。わたしたちが連れて行かれたのは築地にある聖路加病院でしたが、この謎の救急隊員はまるでわたしたちを監視するかのようにそばを離れないのです。

「どうしてわたしたちのところにいるのですか。忙しくはないのですか」とわたしが聞くと「あなたたちが外人だから親切にしてあげます」と彼は答えました。わたしの疑念は募るばかりです。

1時間ばかり待たされた後、診察が始まったのですが、びっくりしたことにこの救急隊員も診察室に入ってくるのです。そればかりではありません。口まで挟むのです。

わたしが医者に自分の痛みを説明しようとすると、この隊員が「大丈夫、大丈夫、たいしたことありません」と勝手なことを言います。

怪我したときの状況についてわたしが医者に話していると、この隊員は「あなたたちが警官の言うことを聞かないから、そんな目に会うんだよ!」と話の邪魔をします。まるで警官の代弁者のようです。

しかも、医者も医者で、どうもわたしたちの怪我を真剣に見てくれているようではありません。何を言っても「大丈夫、大丈夫」です。

ある女性の足を診察した医者は「あなた、前から足が痛いでしょう」と、まるで怪我の原因が今日の出来事ではないかのような口ぶりです。

別の人の怪我に至っては、「今日のところはヒビは入っていないが、明日ヒビが入るかも」などと言う始末です。

謎の救急隊員といい、医者の対応といい、わたしはどうも釈然としないものを感じたのでした。

そこでわたしたちは診断書をください、と頼みました。すると、忙しいからすぐにはできない、といわれましたが、もしここで引き下がるとうやむやになってしまうのではないかと恐れたわたしたちは、怪我が痛くても我慢して診断書を待つことにしました。

診察中に、ある負傷者のもとに電話が入りました。誰からかはわかりませんが、「医療費は払う必要はないから払わないように」という電話でした。

わたしたちの中には、まだ難民申請中の人もいました。つまり、保険がない人もいたということです。だから、診察が終わって3万円、4万円という額を請求される人もいました。

そこでわたしたちが「こんなお金は持っていないし、払うつもりもありません」というと、病院側の答えは「それはわたしたちとは関係のないことです」というものでした。結局わたしたちは払いませんでした。

その日病院で診察を受けたのは12人だけでしたが、実際には怪我をした人はもっといました。ただ病院に行かなかっただけです。しかも、当日は何ともなかったのに、翌日あるいは数日後に激しい痛みを感じて後から病院に行った人もいます。(終)