2008/05/04

他者との自己同一化

「確かに、他者との自己同一化、他者と自己を同じ人間として考える態度が、今日では昔より広がっていることは否めない。罪人の打ち首、八つ裂き、車裂きの刑を見物しに行くのが日曜日の娯楽であった時代ははるか昔のこととなった。」

『死にゆく者の孤独』ノルベルト・エリアス

ビルマはこうした「態度」が広がっていない国のひとつだ。軍人たちが非ビルマ民族に対して(大人であろうと子どもであろうと、男性であろうと女性であろうと)行っている蛮行は、この他者との自己同一化の欠如によらずして説明することはできない。

だが、軍事政権に迫害される側の人々(ビルマ民族も非ビルマ民族も)には、そういった態度が身に付いているかというとそうではないのである。

多くのビルマの人々にとっては、自分と異なる民族、自分と異なる信仰を持つ集団、自分と異なる政治的態度をもつ人々が、ときとして自分と同じ他者としてではなく、悪魔や禽獣に近い非人間的存在として立ち現れる瞬間がある。

もっとも、われわれ日本人が北朝鮮人や中国人のことをどのように見なしているかを考えれば、ビルマの人々のことを笑うことはできない。それは、日本人から北朝鮮人や中国人について聞かされた無知な人が、この二つの国の人々が強さと賢さにおいて超人に違いないと逆に結論づけてしまうほどなのである。