2012/09/08

びるまクン

わたしの友人が電話をかけてきてこんなことを言った。

「確かな証拠があるのだが、さかなクンのトレードマークであるあのハコフグのかぶり物は、帽子などではないのだ。己の宿命を悟った人間がそのさだめに一心不乱に打ち込む時、その対象は形を取らずにはおられない。魚類をひたむきに愛し、社会の啓発に打ち込むさかなクンのハコフグもそれに類したもの、つまり気の凝り固まりたるものにほかならぬのだ。だから、さかなクンはあのハコフグを脱がないのではない。脱げないのである。いや、そもそも脱ぐ脱がないというものではない。なにしろそれは彼の一部なのだから」

さかなクンが研究員を務める横浜の「よしもとおもしろ水族館」に行ったこともあるわたしとしては、友人のこの説にはまったく感嘆するばかりだった。そういえば、南方熊楠も菅江真澄のあの有名な被り物について同じようなことを言っていたような……。

だが、それはどうでもいい。友人は自説の開陳を終えると、不意にわたしに問いかけた。「お前はビルマのことをいろいろやっているそうだが、いっこうにそれが頭上において形象化されないではないか、いったいその程度の覚悟でいいのか!」

わたしは「うるせえ」といって電話を切った。