ビルマの多くの民族には冠称と呼ばれるものがあって、文字通り「名前に冠する称号」なのだが、これによって、その人がどの民族に属し、男性か女性か、社会的な地位などを表示することができる。
たとえばカレン人の冠称はSAW(男性)とNAW(女性)で、これが名前の前に置かれることでその人がカレン人の男性(もしくは女性)だと分かる仕組みになっている。
とはいえ、このSAWとNAWというのは、カレン人のすべてが用いているわけではない。この冠称を用いるのは、カレン人でもスゴー・カレンと呼ばれる民族で、13以上とも言われるカレンの他の民族集団は別の冠称を用いている。
スゴー・カレンと並ぶもうひとつの大きな民族集団、ポー・カレンの冠称はSA(男性)とNANG(女性)である(ポー・カレンはさらに西と東に分かれるが、この冠称がどちらのだかは忘れた。また男性の年配者にはMAHNという別の冠称もある)。
在日カレン人にポー・カレンでありながらSAWという冠称を持つ人がいる。
その理由を聞いたら、こんなエピソードを話してくれた。
「わたしが中学生の頃のことです。その学校にはビルマ人もおり、また仏教徒ポー・カレンでしばしば見られるようにわたしもビルマ風の名前であったので、わたしは自分の民族の冠称を使わずに、ビルマ民族と同じ冠称MAUNG(若い男性の冠称)を用いていました。するとあるとき、わたしがカレン人であることを知ったビルマ人の学校の先生がこんなことを言い出したのでした。
『カレン人であるきみがMAUNGなど使うことはない。カレン人らしくするがいい』
そして、先生はわたしの名前の前にSAWを付け、名簿上もそのように変えてしまったのでした。その結果、今もパスポートなどではこのSAWが付いたままなのです。」