これまでここで述べ、またいくつかの観点から推奨してきた「非中黒法」は、名そのものには中黒(・)を入れず、冠称や姓の区切りにのみこれを使用するというものであった。
しかし、名そのものに中黒を使用したほうがいいと思われる場合もある。
非ビルマ民族(少数民族)のうち、チン、カチン、カレン、カレンニーにはかなりの数のキリスト教徒がおり、なかにはキリスト教徒が多数派を占める民族もいる。
そうした民族は、聖書の登場人物や、宣教師にちなんだ名前を持つこともある。
たとえば、次のような名前を持つカレン人がいる。
SAW DAVID TAW
ここでSAWというのが冠称、それに続く部分が名になるが、もちろんこのうちDAVID「デイヴィッド」というのが聖書に由来する名前だ。
聖書に由来する名前というのは、それ自身で独立した名前とみなせるし、たいていの場合それのみで、つまりこの場合ではDAVIDだけで通用していることがほとんどなので、日本語の表記としては例外的に「ソウ・デイヴィッドトウ」よりも「ソウ・デイヴィッド・トウ」としたいところだ。
もうひとつの例外、つまり名の部分に中黒を入れたい場合としては、当のビルマ国籍者が自分の名前の日本語表記に中黒を入れている場合がある。
すなわち、ある程度日本語能力があり、自分の名前をカタカナで書けるビルマ出身者のなかには、名刺などで自分の名前を表記する場合に中黒法を用いていることがあるのだが、この場合はその人の採用した表記を尊重すべきであろうと思われる。
ところで、人によっては自分の名前を次のように表記する人がいる。
「ソウ デビッド トウ」
つまり、名前の構成要素の区切りを中黒ではなく半角もしくは全角のスペースをもって行っているのだが、日本語の正書法は、英語などとは異なりこうしたスペースによる区切りを採用していないので、これは特にレイアウト上の理由がないかぎり、あまりお薦めしたくないところだ。