ビルマ人の名前には姓がなく、原則的にはアウンサンスーチーならそのすべてが名だ。
いっぽう、ビルマ語には冠称というものがある。これは人名の前についてその人が1)男性であるか女性であるか、2)年の頃はいかほどかを示すものだ。具体的にはおおよそ次のようになるようだ。
〈男性〉
ウー 年上
コー 同年代もしくは少し年上
マウン 年下
〈女性〉
ドー 年上
マ それ以外
例えばアウンサンスーチーさんの場合は、年齢的にいっても地位からいってもドーにふさわしく、ドー・アウンサンスーチーとかドー・スーとかいわれているのをよく耳にする。
ある部分では日本語の「さん」「さま」に対応するものと見ていいが、それでも違いはある。
例えば、自分で名乗る時にもこの冠称を自分でつける場合がある。たとえば「わたしはウー・ティンウーです」というような場合がそれで、これを日本語の「さん」にそのまま置き換えてはおかしい。
ビルマの人が電話をかけてきて時々「わたしはティンウーさんです」と、自分にさん付けするのをいつも変だなと思っていたが、もしかしたらこの冠称の用法と関係があるのかもしれない。
それはさておき、もうひとつの違いは、登録証、パスポートなどにもこの冠称がそのままついている場合もあることだ。つまり、名前の一部として登録されてしまっているのである。そうなるとこの冠称を名前の一部として扱わなくてはならなくなる。
非中黒法、つまり名前の構成要素を中黒で区切らない表記法の利点は、このように冠称と人名を併記しなければならない場合に、冠称と名前を中黒によってはっきりと区別することができることにある。
つまり非中黒法のドー・アウンサンスーチーのほうが、中黒法のドー・アウン・サン・スー・チーよりも、名前と冠称の区別がしやすいという点で優れている。
もちろん、名前と冠称の区別ならば、別の区切り記号を導入すれば、中黒法でも可能である。例えば、ドー=アウン・サン・スー・チーというのがそれで、冠称と名前との区切りの印として=を導入したわけである。
これでも悪くはないのだが、=という記号を別に導入するのは、表記法を複雑にするわけで、できたら中黒ひとつ、しかもできるだけ少なくしたいものだ。
さて、これまではもっぱらビルマ人の人名ばかり扱ってきたが、もちろんのことビルマに住んでいるのはビルマ人ばかりではない。カチン人、チン人、カレン人などさまざまな民族が暮らしている。そこで次回はこれらの非ビルマ民族の名前の表記をも考慮に入れて、中黒法か非中黒法のどちらがよいかを論じてみよう。