2009/03/16

アウンサンスーチーかアウン・サン・スー・チーか(4)

ビルマ民族をはじめとしてビルマに暮らす多くの民族が姓を持たないことはすでに述べたが、もちろん姓を持つ民族もいる。

その代表的な民族がカチン人だ。これ以外にも、インド系の住民、中国系の住民、イスラム系の住民など姓を持つ民族はいるに違いないが、よく知らないので扱わない(中国系の人は中国名とビルマ名の両方を持っていることが多いようだ)。

カチン人の人名の基本的な構成は、「姓」+「名」であり、日本人の人名構成と同じだ。具体的にいえば次のような名前「BAWMWANG LA RAW」で、「ボウムワン」が姓にあたる。これを中黒法で書き表すと「ボウムワン・ラ・ロウ」となり、姓と名の区切りが分からなくなる。

とはいえ、姓が前に来ると決まっているのだから、1番目に中黒で区切られる要素が姓であるとすぐに分かるので、問題とはなりえない、ともいえなくはない。しかし、この「BAWMWANG」を「BAWM WANG」と分かち書きするケースもままあり、その場合そうした表記に忠実であろうとすると「ボウム・ワン・ラ・ロウ」と書かざるを得ない。要するに、中黒法ではカチン人の人名の「姓」と「名」の区切りを十分表記できないのだ(ちなみに、カチン語を表記するカチン文字は、ローマ文字をもとにしている)。

そこで、非中黒法、つまり以前に述べたような冠称と名の区切りに中黒を用いて、名の部分には中黒を用いないというやり方、つまり「ボウムワン・ラロウ」という表記のほうが優れているということになる。

とはいえ、これがいつでも上手くいくわけではない。あるカチン人にこんな名前の人がいる。

LASHI LABYA XXXXX

XXXXが名であり、したがって「LASHI LABYA」が姓となるのだが、だからといって「ラシラビヤ」というひとつの姓ではないのである。つまり、「ラシ」と「ラビヤ」はそれぞれ独立した姓であり、この人は二つの姓を名乗っていることになる。

とはいえ、これは夫婦別姓主義の家庭の子どもが両親の姓を二つ名乗っているわけではない。そうではなく、「ラシ・ラビヤ」とは「ラシ」の家系の中の「ラビヤ」系であることを示しているのである。

要するに、カチン人の「姓」は、その人がどの家系、別の言葉を使えばどの氏族(クラン)に属しているかの表示となっているのである。その点では、そうした機能がほとんどない日本の「姓」とは似て非なるものだ。

日本との比較はともかく、カチン人の目から見てこのLASHI LABYAが二つに分けられるべきものととらえられているのならば「ラシ・ラビヤ・XXXX」と表記する必要があろう。

さらに、カチン人はその「姓」とは別に、その人の家柄を示すある種の「称号」や、その人の社会的地位を示す冠称を名前に付けることがある。これらもやはり姓と同じく中黒で名と区別すべきであろう。