入管に収容された難民は時として財産をすべて失うことがある。
例えば、ひとりで暮らしていた場合、家財を整理したり引き取ったりしてくれる人が誰もいないと、大家に勝手に処分されてしまうこともある。
あるカレン人夫婦も同じような目にあった。同時に収容されたため、家に誰もいなくなり、またもちろんのこと家賃を払うものもいなくなってしまった。そして、大家が部屋に入ってその中にあるものをすべて捨ててしまった。その中には難民認定申請にかかわる重要な書類もあったのである。
2人に残されたのは、たまたま持ち歩いていた結婚式の写真1枚だけだった。
収容された後、親族や友人が主のいない部屋にやってきて、大事なものを引き取ってくれることもある。だが、これもまたトラブルのもとである。
ある収容者は、友人に家財の整理と保管を頼んだ。そして数ヶ月後に釈放された彼が見たのは、友人がそれらを我が物顔で使っている光景だった。その友人は彼の布団で寝て、彼の電子レンジで調理していた。
釈放されたばかりで無一文、寝るところもない彼はぐっとこらえて、泊めて欲しいと頼む。すると、その友人が渡したのは別の薄っぺらな布団だったという。
信頼できる親族、友人がいない場合、多くの収容者はほとんどの財産を失い、釈放後、再び一からやり直さなければなくなる。もちろん、銀行預金等の蓄えがあれば、再出発は容易だが、それも金額次第だ。仮放免保証金で消えてなくなる場合だってある。
入管の収容により、振り出しに戻ってしまうこと、裸一貫で日本に逃げてきた当時の状態に戻ってしまうこと。これはいわば「第2の上陸」とでもいうべき現象だ。
在日ビルマ難民の多くはこうした脆弱な生活環境に暮らしている。これらの人々がたとえ日本人と同じように働き、同じような額の収入を得ていたとしても、その状態から無一文に転がり落ちるのは、日本人と比べてはるかに急なのである。