入管6階のエレベーター前でもめている。
「だから上の人間に話をさせろっていうんだよ!」
と大声で言うのは60代の男。2人の入管の職員がその両脇に立っている。ひとりの職員が答える。
「まだ、こっちの処理も終わってもいないのにそんなことはできません」
具体的な事情はわからない。推測するに、60代の男性は誰か収容中の外国人の保証人か何かで、その外国人が釈放されるよう手を尽くしているのにもかかわらず、思うようにいかないので怒っているようだった。男は「理屈にあわない」と繰り返していた。
「収容なんかする必要があるのか!」
「出頭を命じた時に来なかったらどうするのですか。わたしたちが家までいっていなかったらどうするのですか」
「そうか、そういう考えで(外国人を)見ているのか! そうやって外国人をどんどん収容しているのか!」
「不法滞在だからそれはしょうがないです。仮放免の手続きもあります」
だが、男はその手続きには心底うんざりしていたようだった。
「いろいろ手続きしたって、結局強制送還してしまうんだろ。あんたらのやっていることは無意味じゃないか!」
それまで冷静に対応していた職員の声がはじめて動揺したように思う。
「その無意味なことをわたしたちは一生懸命やっているのです!」
この言葉をどう受け取るかは、人それぞれだろう。入管職員としての無力な立場に対する悲嘆と見ることもできるし、公務員特有の美学の表明と見ることもできる。「売り言葉に買い言葉」の類いで、それほど深い意味はないのかもしれないし、あるいは、だからこそ真情が吐露された、と捉えるべきなのかもしれない。
多少の「言ってやった」感、つまり若干の自己陶酔の匂いもなきにしもあらずであったことも付け加えておこう。
それはさておき、廊下ではあまり大声で話さないほうがいいと思う。誰が聞いているか知れたものではない。