2009/08/01

写真は恐怖を写し出す(5)

日本から帰国したビルマ国籍者が、まず怖れるのが空港での尋問だ。聞いた話によると、日本から帰ってきたということがわかると、軍情報部だか警察だかに別室に連行されるのだという。そこで、荷物を調べられ、日本のビルマ民主化活動家の写真を何枚も見せられ「こいつを知っているか」「こいつはどうだ」などと尋問されるのだが、もちろんたとえ知っていてもそう答える向こう見ずな愚か者などいやしない。「わたしは日本では日本人しかいない職場(学校)にいたので、ビルマ人とはほとんど付き合いがありませんでした。だから一切存じません」というのが、模範解答のようだ。

もっとも、なかには不運な人もいる。

あるカレン人が不法滞在で捕まって、入管によってビルマに強制送還された。ヤンゴンの空港に到着したとき、彼の手にはひとつのスーツケースがあった。送還される前に、彼の友人が、貯金とアパートに残された所持品を詰め込んで、入管に差し入れてくれたのだ。軍情報部が日本からの帰国者である彼にさっそく目を付けた。小さな部屋に連れて行き、政治活動に関わっていなかったどうか尋問を始めた。彼は実際には政治活動に関係していたが、そのことはおくびにも出さない。

だが、軍人たちはスーツケースを開け、くまなく中を調べ、彼のまったく予期せぬことについに一枚の写真を見つけだした。それは、ある政治的集会で撮られたもので、著名な難民と彼が肩を並べて写っていた。つまり、彼の友人が中身を吟味せず所持品をスーツケースに詰め込んだせいで、本来ならば持ってきてはいけない写真まで紛れ込んでしまったのだ。スーツケースは出発直前に差し入れられたため、入管から成田空港の機内まで拘束されて連れて行かれる彼には、それを開いて中身をあらためる機会などなかった。

彼は軍人たちに嘘つきと罵られ、後頭部を殴りつけられた。だが、拘留が数日間で済んだのは、かなり幸運なことだった。もっとも、彼とその親族がたっぷりと賄賂を渡していなかったら、そんな幸運も訪れなかったことだろう。