2013/06/20

難民の難儀

あるカチンの女性がアメリカ合衆国に行くことになった。親戚の結婚式があるのだ。

彼女はビルマの難民だから,日本人のように簡単にアメリカには行けない。

ビザ免除プログラムというものがあり,日本を含む特定の国の人はビザなしで90日間アメリカに滞在することができるが,ビルマは違うのだ。

非移民ビザを申請して取得しなくてはならない。これはインターネットで申請し,ビザ料金を支払い,大使館での面接した後に発給される(されないこともある)。だいたい1週間から2週間かかるらしい。日本人でも留学や就労のさいにはこの手続きが必要となるようだが,観光や短期の商用で行く分にはまず用がない。

で,そのカチンの女性はインターネットも英語も苦手なので,わたしに助けを求めて来た。しかも,結婚式までもう間がない。すぐ手伝ってくれという。

なんでこんなギリギリになったかというと,ワケがある。彼女は日本の入国管理局に再入国証の更新を申請していたのだが,なかなか許可が下りなかったのだ。

近頃の入管はとても忙しいらしく,「これこれの申請をしたのだが,待てど暮らせど返事が来ない」という話をよく聞く。内情は分からないけど,もしかしたら去年の7月の在留カードの切り替えと関係あるのかもしれない。もうすぐ1年経つから。

それはともかく,わたしは彼女とオンライン申請をする。面倒くさいが無事終了。次にビザ料金160ドルの支払い。これも一騒動あったが,なんとか終わる。さて,次は領事との面接の予約だ。これもオンラインでできる。

で,予約画面に入ったら,もっとも近い可能な面接日が結婚式の日の後。これじゃ間に合わない。

大使館に問い合わせる。わたしは事情を説明するが,答えは不可能。優先面接というシステムもあるが,これは葬式や緊急の商用のみで,結婚式や卒業式は理由にならないとのこと。

カチンの女性は頭を抱えている。すっかりしょげちゃった。結婚式の後から行ったって意味ない。式に集う親戚たちと会うのが何よりの楽しみなのだ。

わたしは,この女性の親戚が日本で結婚したときのことを思い出した。花嫁はビルマから自分の式に両親を呼ぼうとしたが,ビザがおりなかった。だが,彼女にはインドに兄がいた。難民として暮らしている。親が無理なら,その兄を呼ぼうと考えた。で,どうしたらよいか,わたしに相談しにきた。

だが,いろいろな問題がありこれは結局諦めざるをえなかった。兄妹の関係を証明する重要な書類がインド・ビルマ・日本の国境のどこかに紛れ込んでしまったのだ。

で,その花嫁,「結婚式なのに家族がだれ1人来てくれないなんて」と毎晩泣いていたそうだ。

そんな事情もあったから,アメリカ行きがフイになってしょぼくれているそのカチンの女性を見て,わたしは「難民であるということは,まったくいろいろ難儀なことだ」とあらためて思ったのだ……。

ところがだ。

その晩,彼女,アメリカの親戚に電話した。で,その親戚がアメリカで役所に掛け合った。そしたら,翌日朝早く面接できることになった。

で,面接を終えたばかりの彼女からさっき「すべてOK」との電話がかかってきた。