2010/10/22

先生ども

東京都庁の27階にある都民生活部にビルマ・コンサーンのNPO法人の設立申請に行った。

申請を受け付けてくれたのは年配の男性で、ちょっと厳しそうだ。前回は若い女性で威圧的な印象は受けなかった。しかし、書類の不備を指摘され、受理してもらえなかった。

今回は万全を期したつもりだ。ぼくは共同して代表をしているタンさんと、再び都庁に乗り込んだのであった(もっとも、申請は郵送で済ませることもできる)。
 
カウンターに座ると、職員が書類を一枚一枚念入りにチェックしはじめた。ぼくたちはハラハラしながら見つめる。だが、そんな心配はないのだ。ぼくたちは抜かりなかった・・・・・・。

ぼくたちはまず、申請書類の中に茶封筒を挟んでおいた。 そいつに気がついた職員は、周囲に気がつかれぬようそっと手で隠して、ポケットに入れた。

だが、職員は再び書類に目を戻した。理事の名前に間違いがないか、眉根を寄せてひとつひとつ指でなぞっている。ぼくたち理事全員を指で潰してやろうかというぐらいの力の入れようだ。

おそらく封筒が薄かったのだ。手触りで分かったのだ。こうなりゃ、プランBだ。

ぼくはおそるおそるいう。「先生のお部屋はどちらでしょうか・・・・・・いや、たいしたことじゃないんです。だたちょっと後でご挨拶にでもと思いまして」

だが先生、これには返事をせず、理事の住民票と理事のリストに記された住所の照合に没頭している。ますます険しい顔して。きっと部屋ではなにか不都合があるんだ。いや、単に虫の居所が悪いだけなのかも。

では、次の手に打って出るしかない。「あの、先生、こう根詰めてお仕事したんじゃ、お体にも障りましょう。ちょっと、外でお茶でもいかがですか」

喫茶店でちょいと鼻薬を効かせようっていうのがこっちの魂胆だ。だが、うんともすんともいいやしない。こいつは手強いぞ。ひょっとしたら、朝から同じような手合いにお茶ばっかり飲まされて、腹がはち切れんばかりなのかもしれない。

それとも、疑り深くなっているのかも。「先生、お茶代をどうぞ」などといわれて渡された封筒に、本当にお茶一杯分しか入っていなかった、マジで一杯食わされた、なんてことが続いたので。

見れば、苦虫をかみつぶしたような顔。ムネン、全部裏目に出たか。これじゃ、いつ突っ返されるか、もうわかりゃしない。

こんなことならはじめからブローカーに頼んでおけばよかった! 金はかかるが、役所とツーカーでちょちょいのちょいだ。その間ぼくたちは、家で寝転んでいいればいいって寸法だ・・・・・・。

すると、職員は言った。「では、少々お待ちください」 書類を持って奧に引っ込んだ。なんと第1段階を突破したようだ。

職員が申請書類を目の前で精査するその緊張感に耐えかねて、ぼくはすっかりビルマ風のやり方に空想で逃げ込んでしまったらしい。もちろんここは日本だ。ここでは職員を「先生」扱いしないし、職員たちはといえば、ぼくたちを「お客様」と呼んでいる。それに、担当してくれた職員もなかなか腰の低い人だということがわかった。

【追記】

この文を発表した後、ある人からこれはとんでもない問題だというご指摘をいただいた。あたかもぼくが賄賂を支払ったかのように読めるというのである。もちろんそんなつもりはないし、そんな事実もない。

また、都庁の職員の方の対応に何か不満があったわけでもない。むしろ適切なものだったと思っている。この文の主眼は、ビルマの役所でこの手の申請をしたら一般的にどのような事態が起きるかということのみにある。だから、文中で妄念に苛まれたぼくが手渡したお金は、円ではなくチャットであり、お茶というのも深蒸し茶とか昆布茶とかダージリンとかではなく、ビルマ風のミルクティーだ。

だが、役所と交渉する時はどうしても緊張してしまう。ビルマと日本の役所の対応には雲泥の差があるが、ぼくはその緊張にひとつの共通点を見いだし、そこから話を広げてみたというわけだ。

とはいえ、誤解をした人がいる、あるいはその可能性があるということは看過できないので、もとの文に少しだけ修正を加えた。

(2010/X/28)