2012/02/22

ノー・サレンダー

わたしが身元保証人をしている人が、難民認定申請を取り消して、ビルマに帰る決意をした。

「大丈夫か?」と聞くと「大丈夫」というので、大丈夫なのだろう。もっともわたしは他の申請者も、この人と同じように大丈夫であるというつもりはない。難民認定申請者にはそれぞれの事情がある。たまたまこの人にとって帰国せざるをえない、あるいは帰国できる条件が整ったというだけのことだ。

それはともかく、帰国を間近に控えた彼が、それに伴ってじきに彼の身元保証人の役目から放免されることになるわたしに礼をしたいというので、2月19日のチン民族記念日式典の後、大塚の中華料理店でで鴨肉やら、豚肉やらをごちそうになった。

ビルマに帰国するためには、入管ばかりでなく、ビルマ大使館での手続きも必要になる。

その手続きのうち、悪名高いのが税金というヤツで、海外に居住するビルマ国民は、滞在国のビルマ大使館に月収の1割の税金(あるいは月1万)を納めないとならないというものだ。

たいていのビルマ国籍者は10年20年と滞在しているわけだから、相当な額に達する。もっとも、額面通り支払わされるケースはあまりないようだ。多くて数十万というところだと思う。なんにせよ、これを支払わないと、パスポートを更新してもらえない、つまり、帰国できないという仕組みになっている。

このシステムは各方面から批判の対象となり、またそれゆえにビルマ大使館のことを「税務署」と揶揄して呼ぶ人々がいるわけだが、昨年の8月以降、収入の2%で十分と、かなり減税されたという。

しかも、帰国する人が言うには、入管に収容されていた期間は税の対象にならない、とのことで、わたしが思っていたよりも余計な出費はしなくて済んだようだった。

もうひとつ変化がある。

以前は、彼のような政治難民がビルマ大使館で帰国手続きをすることを「サレンダー」と言ったものだった。つまり、反政府活動などという「けしからん活動」をしたことを悔い改め、心から恭順の意を示して、ビルマ政府に降伏する、というわけで、実際に「もう政治活動などはしません」という誓約書を書かされる。

しかし、もはや(あるいはいまのところは)こうした誓約書は廃されているとのこと。彼によれば、日本でどのような政治団体に所属していたかは話したが、 そのような誓約書にサインするようなことはなかったという。すなわち、もはや「サレンダー」ではないということだ(もっとも大使館で報告した政治活動歴が将来悪用されないとは限らないが)。

わたしは国外のビルマ難民が帰国するにあたって、ビルマ政府は税などとるべきではなく、それどころかその難民生活による不利益・辛苦に対して補償すらすべきであると思うが、そうであるにしても、帰国手続きが敵対的なものではなくなっているのは良いことに違いない。