2011/03/25

独裁の大義(7)

軍事政権にしてみれば、いかに非ビルマ民族を無力化するかこそが最重要課題、連邦制などくそくらえ、というわけだ。いや、それだけでは、チトものたりん、いっそのこと、奴隷みたいになってくれれば? 文句ひとつ言わずに、従順に、ルビーを掘ったり、砂金を求めて川に飛び込んだりしてくれれば? 非ビルマ民族居住地域で産出する富を、軍事政権に脅された非ビルマ民族が労苦して取り出し、家康が食べる、とそんな具合になってくれれば? 「バカヤロウ! 俺をあんまりうれしがらせるな」(『墓場鬼太郎』)。

かくして、非ビルマ民族の物であった富は、いまや軍事政権のものとなる。しかも、ビルマ軍事政権はまともな政府が見せかけでもやるようなこと、つまり富の分配だなんてことにうつつを抜かしはしない。「全額ポケットに」が軍人たちの合い言葉だ。なぜなら、この富のみが軍事政権の唯一の足場、根拠なのだから。

まずもちろんのこと、富は軍事政権に強力な軍事力を与える。これは非ビルマ民族居住地域における軍事政権の支配力をますます確固にし、その分ますます富をもたらす。

さらに富は、軍事政権に国内支配の正当性を与える。金があればなんでも可能だ。弱い人間は、貧しい人間は、どんなに軍事政権を憎んでいても、すがりつかずにはいられない。なぜなら、軍事政権以外に富を得る手段はないのだから。

また、富は国際的な圧力を無効化し、制裁をはねのける力を与える。実際、制裁なんてどこ吹く風。中国だって、ロシアだって、インドだって、タイだって、日本だって、韓国だって、ビルマが儲かる、ときちゃ、もう気もそぞろだ。制裁どころか手を差し伸べたいぐらい。互いに牽制し合って。口じゃいろいろ言うが、軍事政権がこのまま続いてくれた方が、だなんてこっそりみんな思っている。

まったく、軍事政権と富は一心同体だ。この富無くしては、軍事政権は存在しえず、また軍事政権無くしては、この富は存在しえない。軍事政権と富とが分かちがたく融合すればするほど、軍事政権にとっては願ったり叶ったり。なにしろ、軍事政権を否定することはできても、富は否定することはできないから。

アウンサンスーチーだって? 民主化運動だって? 確かにスーチーさんはすごい人物だが、彼女は決してビルマ変革のキーパーソンなんかじゃない。 スーチーさん抜きでビルマの政治を語ることなんていくらでもできる。本当のキーパーソンは非ビルマ民族だ。ビルマの変革は、これらの民族がいかに軍事政権と富とを引き離すかにかかっているのだ。(おわり)