2013/03/30

損得感情

わたしが身元保証人しているビルマ人が難民認定申請を取り下げて帰国した。

その人は、わたしと同じく在日ビルマ難民たすけあいの会(BRSA)の会員で、茨城県牛久の入国管理センターに収容されていた。その仮放免申請のさいに、BRSAの身元保証支援としてわたしが身元保証人となったわけだが、今回、いろいろな事情があり、帰国を決意したのである。

彼はまた仮放免時にBRSAから保証金30万円の半額15万円を借りていた。

さて帰国するとなると、この保証金が入管から返ってくることとなる。しかし問題は、彼が出国した後でなければ、お金を受け取ることができないということだ。

BRSAの側にとっては問題はない。 貸していたお金がそのまま返ってくるだけだから。だが、帰国する人にとっては、15万円というのはちょっとした金額だ。帰りのチケットを買ってもおつりが来る。

そこで当然のことこんなふうに考える。「どうにかしてこの15万円を先に受け取ることはできないだろうか」 これはそもそも彼のお金だ。受け取る権利は十分ある。 しかも、自分が帰国した後、入管から確実に受け取ることができるお金でもある。貸す側にだってとりっぱぐれはない。どうだろう、と彼はBRSAに頼む、15万円を帰国する前に返して欲しいのですが。

BRSAの役員たちの答えはNoだ。理屈は簡単。「BRSAのお金は難民のためのお金だ。しかし、難民認定申請を取り下げ帰国をするあなたはもはや難民ではない。もちろん、あなたの状況は分かるが、難民である他の会員たちがこれについて納得するとは思えない」

そこで、彼は身元保証人にしてBRSAの会長であるわたしのところに電話してくることとなる。「どうかお金を貸してもらえませんか?」 つまり、個人的にお金を貸してくれないかというのである。

貸したとしても問題はない。なにしろ、彼が帰国した後に入管に行って保証金を受け取るのは身元保証人であるこのわたしだ。損することはありえない。だが、15万円は大きすぎる。そこで値切る。7万円なら貸せますよ……彼も一安心。

数日後、彼が受け取りにくる。わたしは7万円を渡す。すると、彼は申し訳なさそうに言う。「やっぱり15万円ではダメですか?」

わたしは考える。無理すればできなくもない。しかし、同時にわたしは不愉快でもあった。なんで俺がお金をかき集めなくちゃならないのか? BRSAの役員だって貸してあげたっていいだろうに……「無理です。すいません」

すると彼はとてもかわいそうな感じで笑い、不機嫌になるどころかわたしへの感謝を繰り返して去って行った。

しばらくして入管から電話があり、わたしは彼が帰国したことを知った。品川に行って保証金30万円を受け取る。そして、わたしはそこから7万円を悲しい気分で、自分の財布に入れた。彼の笑顔がちらつく……15万円貸してあげたって本当は良かったんだ。

さて、その後BRSAのミーティングでわたしは残りのお金23万円を役員に渡した。そのうち15万円はBRSAの会計に戻され、8万円がビルマにいる彼に送金されるはずだ。

と、ある役員が次のような報告をした。「この人(帰った人)はね、会費を全然払っていないですよ。なので、未払分をこの8万円から引きますから。残った分を彼に送ります!」