モウニーさんの一杯の誘いにも関わらず搭乗時間にはなんとか間に合いそうだったが、急ぐのにはもう一つ理由があった。どういう仕組みか知らないが、座席が搭乗口のカウンターで決められると言われていたのだ。
間の席は絶対やだ。その一心で24ゲートまで急ぐ。
着いたときにはまだ搭乗は始まったばかりで、エコノミーは呼ばれてもいなかった。受付に行って、搭乗券を受け取る。通路側の席だ。よかった。
しかし乗ってみると隣が、いつもチッチ、とかチュッとか、チィーとか口を鳴らしているおじさんだった。
どこからその癖が生じてくるのか。歯とか入れ歯の問題なのか。どうして誰も注意しないのか。そもそも本人は気がついているのか、わたしには分からない。
それとも、おじさんはある種のステージに上がると、口腔内からうっとりするような甘露が染み出てきてそれを母乳のように吸うようになるのだろうか。
こうしたおじさんに出会うたびに自分でもやってみたくなるが、病みつきになったら怖いのでしない。
わたしも歯はいいほうではないので、いつかチュッチィーチッチチィーチュッとやり出すかもしれない。いや、すでに同類なのに自覚していないだけでは……その可能性大だ。
ま、迷惑かけるのはお互い様だ。虫の音だと思うことにして寝た。
23:00過ぎにバンコクに到着。