しかし、元囚人の数に掛けちゃ、日本だって、少なくともわたしの周りじゃ、負けちゃいない。いやはやわたしのグループときたら、ほとんどが入管に長いこと収容されてた。少なくとも八ヶ月、長くて一年半。ま、わたしが入管に行きだした二〇〇三年頃には二年、三年閉じ込められてるのなんてザラだった。入管の収容所ってのは、強制退去命令が出た外国人が、日本から放り出されるまでの間、留め置かれるところだ。国に帰ろうってヤツはいい。しかし、そうもいかないヤツだってたくさんいる。難民とか、日本で結婚した人とか、病気だとか、いろいろだ。そうした人々は、いつまでもいつまでも入管の中で待ち続けるんだ。日本政府が諦めるか、それとも誰かが身元保証人して外に出してくれるまで。ビルマの人が帰れない理由はいろいろだ。一九八八年のデモに参加したとか、最近じゃサフラン革命でやらかしたとか、親が反政府運動の大物で家族ごと狙われているとか、何にもしていないけれど民族ごと抹殺されそうだからとか。なんにせよそれらは大抵日本政府に認められない。さあ、さっさと帰りなさい! で、収容される。頑として帰らない。帰国して刑務所に入れられるぐらいなら、殺されるぐらいなら、入管の方がましなのだ。だが、刑務所のほうにもいい点がある。なんてったって刑期がある。お勤めっちゅうくらいだから勤労者の一種だ。しかし、入管の収容所にはそんなものなどない。あるのはただただ命の浪費だ。いつ出られるかも分からない。いつむりやり飛行機に乗せられて送り返されるか分からない。そんな不安と恐怖の中で、ひたすら命をすり減らしていくだけの毎日だ。青春を壮年時代を働き盛りを溶かしていくただそれだけの。これは苦しい。まず足にガタが来る。出歩けないから、弱って来るんだ。持病を持ってるヤツはどんどん悪くする。歯がぼろぼろになり目が弱ってくる。喘息、湿疹、腫れ、痒み、至るところで反乱だ。便秘! 不眠! 射精するとあそこが痛くなる! 酷い痔! おお、入管の収容所じゃ痔は特別だ。便器は血まみれ、布団は血の染み! 俺の知ってるシャン人はあまりに苦しさにのたうち回った。自殺してやると喚いた! 周りだって一緒にいたくない。収容所内の鼻つまみだ。こうなると仮放免申請すると早い! 入管も早く追い出したがってるから。しかしほんとに死んでしまうヤツだっている。くも膜下出血でロヒンギャの難民が死んだばかりだ。入管職員に暴行されて死ぬのんだって。それと、鬱状態の自殺も。
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『アボーション・ロード』「第7章 地の獄の囚人たち」についてはまえがきを参照されたい。