『Hate』シリーズで知られるアメリカのオルタナ系漫画家、ピーター・バッグ(Peter Bagge)の去年出版された書き下ろし作品に、『Woman Rebel: The Margaret Sanger Story』というものがある。
これはアメリカの産児制限活動家として有名なマーガレット・サンガーの伝記で、わたしはこの分野にまったく知識も関心もなかったが、ピーター・バッグらしいスタイル(つまりコミカルに締めくくられる短いエピソードを積み重ねていく手法と、デフォルメされた人物による強い感情表現)のため面白く読んだ。欠点もあるがかなりいい作品だ。
マーガレット・サンガーの今日の評価は必ずしも肯定的なものばかりではないようだが、女性には自分の望む時に望むだけ出産する権利がある、という今では一応当たり前とされることが認められていなかった前世紀初頭のアメリカで、それを訴えたというのは非常に意義のある、そして、漫画でも描かれているように非常に勇気あることだと思われる。
現在のビルマで反イスラム的感情が非常に強く見られるのは周知の通りだが、この感情はしばしば 「ムスリムは子どもをどんどん作る」という認識を背負っていることがある。
というのもこの認識は二つの脅威に連動しているからで、それは一つはムスリム人口が増えることに対する恐れであり、もう一つはイスラムと(しばしば誤って)結びつけられる一夫多妻制により、ビルマの非ムスリム女性が奪われることに対する恐れである。
そして、この恐れはムスリムであるロヒンギャの人々に対して産児制限を強いるまでに高まっている。
とはいえ、わたしはビルマのムスリムが多産であることが統計的に確かなのかどうか知らない。もしかしたら正しいのかもしれないが、たとえそうだとしても、それはその原因はイスラムなどの宗教的・民族的理由というよりも、貧困と性教育の欠如(避妊法に対する無知)、さらにいえば極端な男性優位の文化(女性の地位の低さ)によるものかもしれない。つまり、ビルマにおける仏教徒とムスリムとの対立は、宗教問題、民族問題でもあるかもしれないが、女性問題でもあるのではないか。
民族対立と宗教対立は解決が難しい。女性の平等の問題もそれ以上に解決は困難だ(日本の現状を見れば分かる)。しかし、仏教徒であろうとムスリムであろうと女性になら女性として理解しあいともに働けるようなポイントがあるかもしれない。そしてそこに対立の解決の糸口があるかもしれない。
そのようなわけでわたしは次回にビルマに行くときは、女性のための避妊具をいろいろ持っていこうかと思うのである。
いや、それはわたしには荷が重いので、『Woman Rebel』一冊だけにしておくか。