2016/01/23

死者の名前(3)

とはいえ、彼が単なる酒飲みで、難民ではなかったというわけではない。彼はその両方であった。ただし、酒のせいで難民どころではなかった。

というのも、わたしは彼が自分の難民性を証明するために必要とされていること、例えば政治問題について学んだり、政治集会に参加したり、反政府デモで汗をかいたりすることに熱心であったとはどうも思えないからだ。

そのような積極性を妨げる何物かが心の内にあり、彼はそれを酒でなだめるしかなかったのだ。その何物かと、彼が難民であることとはどのような関係にあったのだろうか? その答えはもはやわからない。

署名をもらいに来る時、彼はたいていその前日に連絡してきた。いくらわたしが暇な人間でもたまには用事が入る。急に言われても困る。しかし、サインするのは身元保証人としてのわたしの義務だ。やりくりして対応しなくてはならない。「入管に明日行かなくてはならなくて」というが、仮放免許可書には前もって次の出頭日が記されているはずだ。ひどい時には当日に電話してきたこともあった。

そんなわけで、いきなりサインが欲しいと言ってきても、簡単には応じるもんかという気もしてきた。彼の都合に振り回されるのがシャクに触ったのだ。

品川入管のバス停