2014/10/30

まるで我々をあざ笑うかのように

在日ビルマ難民たすけあいの会(BRSA)が出来たばかりの2008年のころ、ある一人の被収容者を巡って議論になったことがあった。

その人はBRSAに仮放免のための支援、具体的に言えば、身元保証人を見つけ、保証金を貸してくれるように求めてきた。

これはBRSAの目的であるし、またその人も会員だ。当時の二人の日本人役員、つまり会長もわたしも当然支援すべきだと主張した。

しかし、ビルマ人役員たちはどちらかというと乗り気ではなかった。その人物はいろいろな点で信用できないというのである。

結局のところ、彼のためにわたしが身元保証人となり、また会からは保証金として30万円貸すことになったのだが、やがてビルマ人役員のほうが正しかったということが明らかになった。

仮放免中の人は定期的に身元保証人から署名をもらわなければならない。その署名の入った申請書を持って入管に出頭し仮放免許可を延長するのである。

彼は最初のうちはわたしのところに署名のためにやってきていたが、次第に来なくなった。

貸与した保釈金も毎月会に返済することになっていたが、四万円ほど返したところで滞った。

電話をして呼び出して問題を解決しようとしたこともあったが、終いには電話にも出なくなってしまった。

周りのビルマ人も、彼がどこにいてどこで働いているのか分からない(もちろん仕事は禁じられている)。

しかし、わたしに会わないでどうやって仮放免許可を延長しているのだろう。わたしは以前、複数枚の申請書にまとめてサインすることがあったが(今はしない)、それにしても何年もわたしの署名なしでいることなどできない。

いっぽう、彼は間違いなく入管で延長しているはずだった。というのも、もし仮放免許可延長のために指定された日時に出頭してこなければ入管のほうからわたしに連絡が来るからだ。

BRSA役員たちは二つの可能性を考えた。わたしの署名の入った申請書をコピーして入管をごまかしているか、わたしの署名を偽造しているかのどちらかだと。

いずれにしても法に触れる問題であり、会の信用にも関わることだから、入管の担当部署に相談するということになった。

そこで、今年の5月のある日、わたしが品川の入管に電話すると、驚愕の事実が明らかになった。

わたしの話を聞いた職員が事情を調べると、まさにその日の午前に彼が来て仮放免延長許可を済ませていたのだった。

あまりにも「まるで我々をあざ笑うかのように」で笑ってしまった。

数日後わたしが入管に赴き、彼が提出したという申請書を見せてもらうと、そこには別の人の筆跡でわたしの名が記されていた。

おそらく知り合いの日本人に書いてもらっていたのだろう。

そして一ヶ月後、入管から連絡が入り、彼が再び仮放免延長許可に出頭したところ、延長ならずしてそのまま収容された、ということを知った。

偽造された署名を確認したときに職員はわたしに言った。

「ここに来るときの印象では悪い人ではないんですけどね」

「そうなんですよ」とわたし。

しかし自分に甘い人間だったのだ。彼はもう帰国しているが、品川に収容されているとき、航空券代がないからお金を何とかして欲しい、とわたしに電話をよこしてきた。