過ぎにし薔薇はただ名のみ、虚しきその名が今に残れり。
ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』
チェスタトンの『ポンド氏の逆説』ではないが、正解したのに間違っていたという話をさせていただきたい。
昨年のことだが、在日ビルマ難民たすけあいの会(BRSA)の忘年会を12月20日にすることになった。
その会場となる居酒屋はビルマ人役員が高田馬場で見つけてくれたという。
どこかと尋ねたら、店の名前はわからないと答える。何度聞いても教えてくれない。店の名称というのはけっこう難しいのでしょうがない。ビルマの人の中には、とにかくどこにあるかわかればこと足りるので、自分が働いている店の名前も言えないことすらある。
別にそれでもかまわない。だが、わたしは店を他の日本人会員に伝えなければならないので困った。
役員が言うにはその店には次のような特徴があるという。
①魚がメイン。
②安い。
③沖縄の店だ。
これだけで店の名前が当てられる人はいるだろうか。ビルマ人との付き合いが長く、高田馬場もそれなりに知っているわたしは、この学生街の数ある居酒屋の中から見事に当ててみせた。
ヒント:ビルマの人にとってチェーン店のほうが入りやすい、というのが分かるとぐっと範囲が狭まるだろう。
さらにもうひとつヒントを出そう。いくら外国人でも日本暮らしが長ければ仮名ぐらいは読める。つまり店名はおそらく漢字だけからなるのだ。
賢明なる読者諸君はもうおわかりだろうか(BRSA会長からの挑戦状だ)。
答えは、
最近やたらとよく見かける磯丸水産だ。
磯丸水産の店の外装を特徴づける青が沖縄を連想させるに違いないという推理と、高田馬場で磯丸水産の前を通り過ぎたことがあるという記憶がわたしを正答に辿り着かせたのだ。
だが、にもかかわらずわたしは間違った。
なぜか。
BRSAのメンバーたちが連れて行ってくれたのはわたしが通りかかったことのないほうの磯丸水産……つまり高田馬場には2店舗あったのである。
過ぎにし店はただ名のみ……