2012/02/24

便りのないのは

保証人をしているアラカン人の難民認定申請者が電話をかけてきた。仮放免許可延長の手続きで品川の入管に出頭することになっているが、ついてきてほしいというのだ。

「もしかしたら収容されるかもしれないです。ちょっと怖い」というので「いや、僕がついていっても収容されるときはなんにもできませんよ」

それに、入管に行ったら半日潰れちまう。しかし、彼は食い下がった。

「一緒に来てくれると、すごいパワーあるから、安心です」

知らぬうちに高い徳を身につけていたようだ。さっそく占い師でも。しかし、どんな神通力の持ち主でも、入管の前では無力なのだ。

ビルマにはウェイザーと呼ばれる超能力者がいる。『ビルマのウェイザー信仰』(土佐佳子著)という本も出ているが、なんでも空を飛んだり、不死身だったりするらしい。

だが、このウェイザー、何年か前に品川に収容されてた。思わず笑った。ビルマの霞食系男子も我が国の入管には敵わんというわけだ。

それはともかく、わたしは彼に「行けそうだったら連絡しますよ」と適当なことを言って電話を切った。問題の先送りだ。時間稼ぎだ。彼は一年以上も入管に収容されていたため、すっかり弱気になってしまっていた。その気持ちはわかるので、無下に断ることもできなかったのだ。

さて、彼が出頭する日が来た。午前中早く行くといってた。わたしは午前9時過ぎに彼に電話した。しめた。出ない。行くつもりでしたが、電話にお出にならなかったので……うーん残念、残念でしたな! いけしゃあしゃあと。こりゃいい。

しかし気になるので、しばらく立ってからかけ直す。出た。入管にいるという。7階だ。収容所の崖っぷちだ。相手は声をひそめながら、後でかけます、と。は、では、お待ちします。

それから待てど暮らせど、電話が来ない。もしかして、ほんとにそのまま収容されたんじゃ? 一番イヤなパターンだ。電話よかかってこい。そしてわたしを罵ってくれ! 

「お前なんかいなくても、ダイジョブだったわい! この優柔不断の腹黒のトントンチキのコンチクショーめ!」(ちょっとお見かけしないうちにずいぶん日本語が上達したようで)。

だが、実際にあり得るのはむしろその逆だ。入管の面会室で、アクリルガラスを挟んで彼はいかにも善良そうに微笑みながら、わたしに感謝を繰り返すだろう。こいつはいたたまれない。

もうすぐお昼になろうとしてる。わたしはしびれを切らしてもう一度電話をかけた。出た。電車に乗っているという。その後わたしたちは一緒に昼飯を食べた。