2012/06/14

アラカンとロヒンギャ(2)

実はこのタインインダーにはもうひとつ含みがある。「原住民族」という意味がそれだ。

すなわち、もともとビルマに住んでいた民族すべてを指すわけで、この意味ではビルマ民族も含まれることになる。

実際、ビルマ民族と他の非ビルマ民族が協力して働くときには「われわれみなタインインダー」という意識というか建前が共有されることもある。

要するに、タインインダーという語には「非ビルマ民族」と「原住民族」という2つの意味があり、前者が問題となる場合にはビルマ民族は含まれないし、後者が問題となる場合にはビルマ民族が含まれるというわけだ。

では、後者が問題となるのはいかなる場合か? 

そのひとつが、ロヒンギャの人々に関する問題であり、アラカン人だけでなく他のすべてのビルマ諸民族は「ロヒンギャはタインインダー」ではない、という点で(少なくとも表面的には)一致している(ちなみに、タインインダーには含まれない他の集団としては、中華系のビルマ人、インド系のビルマ人などがある)。

それゆえ、さきにわたしは「タインインダー」を「非ビルマ民族・少数民族」でもありうるとしたが、これは実は正確ではないことになる。なぜなら、非ビルマ民族や少数民族という言葉にはロヒンギャや中華系のビルマ人も含まれうるから。

ゆえに正確には「タインインダー」とは「ビルマにもともと住んでいた民族の総称で、このうちビルマ民族は含まれないことがある」とでも定義するほかあるまい。もっとも、原住民族かどうかは相対的なものだ。多くの非ビルマ民族にいわせれば、もっとも最後にやってきたのはビルマ民族ということであり、それゆえビルマ民族は原住民族ではないという主張も成り立つのである。

それでも、ビルマ民族がこれに含まれることがあるのは、「タインインダー」という語とそれにまつわる意識(の変容)がビルマ連邦という国家の形成に関わっているという歴史的な事情があるためだと考えられるが、ここではこれには触れない(わからないので)。

いずれにせよ、「タインインダー」というのはビルマ国内の民族理解を反映した独特な概念であるのだが、この概念が問題なのは、残念ながらビルマ国外ではまったくこれが通用しない、ということなのだ。