ビルマの国民指導者であるアウンサンスーチーさんがカレン人だという噂がある。
もちろん,そんなことは彼女について書かれた本のどこにも書いてない(と思う)。また,そんなことをいうビルマ民族もいない。
しかし,カレン民族のなかには,彼女がカレン人である,あるいは少なくともカレンの血を引いている,ということを信じている人がいる。
以前,年配のカレン人男性が,わたしに英語の本を見せて,その説が本当であることを力説した。
その本のタイトルも著者も忘れてしまったが,それには,スーチーさんのお母さんのドウ・キンチーがポー・カレン(カレン民族のひとつ)であると記されていた。
つまり,スーチーさんはビルマ人であるアウンサン将軍とカレン人女性との間に生まれた子どもだというのである。
しかし,Wikipediaのキンチーさんのページは,彼女がカレン人クリスチャンであるという噂があることに触れた上で,これを完全に否定している。
もっとも,これも完全には信じられない。というのも,ビルマ民族の民族主義者からすれば,国母であるキンチーさんが,ビルマ民族でも仏教徒でもないというのは「不都合な真実」であるから。
そこで,ある機会にわたしはポー・カレン人の牧師に尋ねてみた。
すると,彼もやはり「そんなことあるわけない」と否定した。
しかし,その一方,ドウ・キンチーがキリスト教徒であることは否定しなかった。彼女は1988年に亡くなるが,そのとき彼女はキリスト教に改宗したというのだ。
そして,彼女がカレン人ではないことは,その死の床での改宗に立ち会った牧師からもたらされた確かな情報だという。
おそらく,この改宗の事実と,彼女がカレン人が大多数を占めるエーヤーワディ管区出身であるという事実から,カレン人だという噂が生じたにちがいない。
わたしはついに真相に到達した……かと思われた。
ドウ・キンチーは,エーヤーワディ管区の町ミャウンミャの出身だ。たまたまミャウンミャ出身のポー・カレン人と話す機会があり,スーチーさんのお母さんについて尋ねてみた。
「ああ,ドウ・キンチーの家なら,家から15分ほどのところだよ」と彼。
「そうなんですか! で,ドウ・キンチーがカレン人だという人がいるのですが」
「そうだよ! 半分カレン人の血が入っているよ。彼女の親戚はカレン人たくさんだよ」
驚いたわたしはさらに尋ねた。ドウ・キンチーの父と母のどちらがカレン人なのか,と。すると,その人は知らないと答えた。
つまり,この説も決定的ではない,というわけだ。
だが,少なくとも,死の床で彼女が自分がカレン人であることを否定したという情報とはこれは矛盾しない。カレン人を片方の親に持つ人が,カレン語をしゃべれず,また,ビルマ民族を自称するのはよくあることだから。
ミャウンミャで徹底的に調査すればもしかしたら分かるかもしれない。
とはいえ,どの民族出身だということが,本当のところ,今のスーチーさんに何か関係があるわけではないし,わたしもそれほど興味はない。
わたしにとって面白いのは,まず,このような噂がカレン人の間で流布していることだ。
そしてさらに,このように民族的出自がいつまでもはっきりしないという状況にこそ,大多数のカレン人の中にビルマ人が暮らしているエーヤーワディ地域の特色がかえって現れているのではないか,ということなのである。
もちろん,そんなことは彼女について書かれた本のどこにも書いてない(と思う)。また,そんなことをいうビルマ民族もいない。
しかし,カレン民族のなかには,彼女がカレン人である,あるいは少なくともカレンの血を引いている,ということを信じている人がいる。
以前,年配のカレン人男性が,わたしに英語の本を見せて,その説が本当であることを力説した。
その本のタイトルも著者も忘れてしまったが,それには,スーチーさんのお母さんのドウ・キンチーがポー・カレン(カレン民族のひとつ)であると記されていた。
つまり,スーチーさんはビルマ人であるアウンサン将軍とカレン人女性との間に生まれた子どもだというのである。
しかし,Wikipediaのキンチーさんのページは,彼女がカレン人クリスチャンであるという噂があることに触れた上で,これを完全に否定している。
もっとも,これも完全には信じられない。というのも,ビルマ民族の民族主義者からすれば,国母であるキンチーさんが,ビルマ民族でも仏教徒でもないというのは「不都合な真実」であるから。
そこで,ある機会にわたしはポー・カレン人の牧師に尋ねてみた。
すると,彼もやはり「そんなことあるわけない」と否定した。
しかし,その一方,ドウ・キンチーがキリスト教徒であることは否定しなかった。彼女は1988年に亡くなるが,そのとき彼女はキリスト教に改宗したというのだ。
そして,彼女がカレン人ではないことは,その死の床での改宗に立ち会った牧師からもたらされた確かな情報だという。
おそらく,この改宗の事実と,彼女がカレン人が大多数を占めるエーヤーワディ管区出身であるという事実から,カレン人だという噂が生じたにちがいない。
わたしはついに真相に到達した……かと思われた。
ドウ・キンチーは,エーヤーワディ管区の町ミャウンミャの出身だ。たまたまミャウンミャ出身のポー・カレン人と話す機会があり,スーチーさんのお母さんについて尋ねてみた。
「ああ,ドウ・キンチーの家なら,家から15分ほどのところだよ」と彼。
「そうなんですか! で,ドウ・キンチーがカレン人だという人がいるのですが」
「そうだよ! 半分カレン人の血が入っているよ。彼女の親戚はカレン人たくさんだよ」
驚いたわたしはさらに尋ねた。ドウ・キンチーの父と母のどちらがカレン人なのか,と。すると,その人は知らないと答えた。
つまり,この説も決定的ではない,というわけだ。
だが,少なくとも,死の床で彼女が自分がカレン人であることを否定したという情報とはこれは矛盾しない。カレン人を片方の親に持つ人が,カレン語をしゃべれず,また,ビルマ民族を自称するのはよくあることだから。
ミャウンミャで徹底的に調査すればもしかしたら分かるかもしれない。
とはいえ,どの民族出身だということが,本当のところ,今のスーチーさんに何か関係があるわけではないし,わたしもそれほど興味はない。
わたしにとって面白いのは,まず,このような噂がカレン人の間で流布していることだ。
そしてさらに,このように民族的出自がいつまでもはっきりしないという状況にこそ,大多数のカレン人の中にビルマ人が暮らしているエーヤーワディ地域の特色がかえって現れているのではないか,ということなのである。