2015/05/19

国境からの電話 [4日目]

入管収容所への電話について書いたら、さっそくそこから電話があった。

わたしが保証人をしていた若い男性で、しばらく行方をくらまして困った人間だと思っていたら、いつの間にか入管に出頭して収容されてた。

それ以来、保証金を返せと矢の催促だ。

そらもちろん彼の金だ。返却に異存はない。しかし、保証金の手続きで半日潰れる。なるべく他の用事と合わせて済ましたい。あらかじめ出頭してくれることを伝えてくれてれば、もっと早く手続きすることもできたが、そう簡単に都合などつかないのが実情だ。

「はいはい、お金はこの前入管に行って銀行から返してもらいました。そのうちBRSAの誰かが届けに行きますよ」

「こっちは2ヶ月待ってるんですけど。お金を借りてるんです。今週中に届けてください」

「ああそうですか。それはすいません。誰かがきっと行きますよ……きっと……」

お前の借金など知るか。

しばらくしてまた着信。だが出損ねる。番号を見ると

03 5461 8070

とある。

リダイヤルしてみると、「おかけになった電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめの上お掛け直しください……」

入管の電話番号をばらしたわたしに対する警告……いや霊界からの通信では。地獄発蜘蛛の糸経由で……。

1時間半ほどして再び同じ電話番号から着信。恐る恐る出る。

入管の被収容者だ。あの世の地獄じゃなくこの世の地獄からだった。

保証金(保管金)還付のさいに入管から渡される小切手。
これはすでに換金済み。

国境への電話 [3日目]

先週4年4ヶ月の禁固刑を言い渡されたネーミョージンさんだが、彼だけじゃない。わたしの周りは基本囚人だ(「元」含む)。

電話が来るかと思えば入管からだ。で、入管収容所から着信があるたびに携帯に登録してる。

そうやってささやかながら収集癖を満たしてるというわけ。『入刊 収容所電話番号コレクション』(アゴニスティーニ・ジャパン)だ。

入管収容所の内部は分からないが、各ブロックごとに電話コーナーがあって、みんなそこに並んでかけているという印象だ。

その電話の一本一本がわたしのコレクションとなる。

だが、ここで残念なことが明らかになった。携帯に「入管収容所」と登録されたほとんどが「おかけになった電話番号は現在……」に成り果てていたのだ!

で、不通になっていないのは次の通り。

03 6718 9703
03 6718 9706
03 6718 9707
03 6718 9708
03 6718 9713

こ97シリーズは発信専用で外からから掛け直すことはできない。

だが、みなさんも試してみたらいいだろう。国境に電話をかけるというのがどんなだか分かるから。

拘置中のネーミョージン。息子さんと。
(4月下旬ごろの写真)

寒山拾得 [2日目]

財布を拾ったどうしよう、と知り合いのあるビルマ難民から電話がかかってきた。

そのまま警察に届ければいいと思うのだが、そう簡単には行かない。

彼は難民認定申請中の仮放免の身で、就労許可はない。しかし、難民認定申請中の人を経済的に支える仕組みは国には(ほとんど)ないから、仕方なく働かなくてはならない。昔は入管もこうした労働を取り締まろうとしていたが、今は見て見ぬふりしている(そして入管のこうした態度がいわゆる「偽装難民」を誘発している)。

で、彼が財布を拾ったのは仕事帰りだ。警察に届け出て、いろいろ聞かれて「不法就労」(いや入管の態度からいえば不問労働だが)をつつかれると心配だ。で、わたしのところに電話をかけてきた。

翌日、事務所にやって来ると彼は言った。「いや、もうこれで財布を拾うのは3度目なんですよ!」

わたしもあやかりたい!

それはともかく前の2回は職場の友人が警察に連絡してくれたらしい。

財布を開くと職場の名刺が出てきた。そこに電話をかけて事情を告げると、本人は休みだが、連絡をしてくれるとのこと。

「きっと心配で今ごろ探し回ってるんじゃないですか」と彼。

しばらく待っていると落とし主から電話がかかってきた。

わたしたちは駅で待ち合わせ、無事に返却することができた。飲んだ帰りに落としたのだそうだ。

落とし主は5000円をお礼として彼に渡した。わたしも500円ぐらい分けてもらえるかもと思ったがそれはなかった。


「彼ら(移民)は犯罪率を上げる!」
というが、ほとんどの移民は犯罪と汚職を避けるし、
送還されでもしたらと思うと
恐くて犯罪になんかかかわっていられない。

「む……あの財布には送還されてもいいぐらいの
金が詰まってるのかね……んなわけない」

結果として犯罪率についていえば、
アメリカ生まれのアメリカ市民より
不法滞在者のほうが低いということになる。
(Peter Bagge, "Everybody is Stupid Except for Me" p117)

2015/05/17

掛け橋としての自由剥奪 [1日目]

政治的抗議活動を理由に昨年12月30日に逮捕され、拘置されていたネーミョージンさんら6人の政治活動家たちが、昨日、4年4ヶ月の禁固刑を言い渡された。

「イラワジ」の記事に引かれている担当弁護士の言葉によれば、司法システムに対する不信から控訴はしないとのことであり、このまま収監されるようだ。

とても悲しいことだ。

友人のひとりとしてそんなことを思っていたら、入管から電話だ。

「あの、会長、ちょっと話いいですか?」

収容されているビルマ難民だ。

立派さの点じゃネーミョージンさんよりぐんと落ちるが、彼もやっぱり自由を奪われている点じゃ変わりない。

そうだ。

ヤンゴンでは今まさに友人が収容されようとしている。日本じゃ、やっぱりわたしの友人たちが閉じこめられている。

どうもこれは偶然じゃあないぞ。なにかある……。

「会長! 奥さんが離婚するって言いだしてもうぜんぜん電話に出てくれないんです」

うるさいっ、俺は今考え中なんだ……。

5月はじめ頃のネーミョージン。

2015/02/18

Chye Na Sai

1月4日に東京で開催されたカチン州記念日式典の前日、カチン人のアウンリーさんから日本語について聞きたいことがあるからと連絡があった。

式典で上映する映画のタイトル「Chye Na Sai」を日本語でどう訳したらよいかという。


この映画は、在日カチン人が製作したもので、自分の民族のことなど忘れて日本で堕落した生活を送るカチン人が民族としての自覚に目覚める話だという。クリスチャンだけあって新約聖書の放蕩息子の物語をも彷彿とさせる。


「Chye Na Sai」はカチン語で「わかった」というような意味で、要するに自分の民族を守るという使命が「わかった」ということだ。アウンリーさんはとても日本語ができる方で、もっとよい日本語の表現はないか、と尋ねてきたのだった。


わたしがいくつか提案したものから「ついに分かった」という邦題になった。


さて、この短編映画は式典の目玉だったが、残念なことに機材の問題でうまく上映できなかったし、音も良く聞き取れなかった。結局、時間の関係もあって上映は途中で打ち切られ、司会のアウンリーさんが「続きはYoutubeでご覧ください」と締めくくった。


映画の監督をしたのはアウンラさんというカチンの男性で、催し物などがあるとビデオでよく撮影している。彼はまた出演もしていて、その他の出演者もみな在日カチン人だ(ただし、そのうち一人はオーストラリアに引っ越してしまった)。


物語を紹介しよう。

タイトルが映し出される。


酒場で女性をはべらせ、堕落した遊びに耽るあるカチンの男。
カチン民族機構(日本)議長のザウラさんが演じている。


女性たちに見送られて店を出ようとすると、偶然、カチン民族の活動家に出会う。
青いシャツの活動家が監督のアウンラさんだ。
カチン民族として男を導こうとする。


アウンラさん扮するカチンの活動家、今度は原宿で別の堕落した男に出会い、
彼を民族運動へと誘う。


しばらくカチンの活動家が歩くシーンが続く。


歩く。


スローモーションになったり、早回しになったりして歩く。


まだ歩いてる。


さて、活動家の家に堕落した男がやってくる。
自分の民族のことに興味を持ったのだ。


カチン民族の状況について、神への信仰について熱く語る活動家。
つけっぱなしのテレビに青木功が映り、気が散るシーンだ。


改心した男がカチン民族機構の集会にやって来て、
おずおずと会場に足を踏み入れる。
「本当は議長なのに!」と思うと可笑しい。


真剣な会議が進む。


幹部が演説をはじめる。


新しいメンバーとして入会!
(本当は議長なのに!)


後悔と喜びの涙……。


カチン民族、みんなで力を合わせよう。


わたしたちは勝利する!

おしまい。

Youtubeのリンクはこちら。



なお、監督の歩くシーンに関心を持った方は、彼の別の作品も見ることを強くお勧めする。

カチン州記念日

1月4日の夜には、池袋の豊島公会堂で、第67回カチン州記念日式典が開催された。主催はカチン民族機構(日本)、KNO-Japanだ。

いつものごとく2部構成で、式典の後に、歌や踊りのパフォーマンスが続いたが、わたしは後半は見ないで帰った。

式典の目玉のひとつとして在日カチン人が制作した短編映画「Chye Na Sai、ついに分かった」も上映されたが、それについてはまた後に記そう。

以下に写真を何枚か。

11月19日の砲撃で亡くなったKIAの兵士たち

受付

カチンの旗に敬礼

出席者

KNO-Japanのジャワンさん

カチンの各民族の衣装

受付

副会長のナンユンさん

ジョン・ミュアウンさんが声明を読み上げる

スライド上映

短編映画上映

バンド演奏

「Let It Go」を英語で披露するカチンの女の子

入管しぐさ

「江戸しぐさ」という、古き良き日本人の姿を伝える思いやり作法はすでにご存知の方も多いと思います。ですが、もうひとつの伝統的な所作伝承、「入管しぐさ」については知らない方も多いのではないでしょうか。

入管しぐさがこれまでほとんど知られていなかったのにはわけがあります。江戸しぐさの場合は、これを語り伝えてきた江戸商人たちが明治の御一新の際に大量虐殺されたためですが、入管しぐさは、入国管理局の職員の間だけで密かに伝えられてきた行動哲学であり、外部にそれが漏れ伝わることはほとんどありませんでした。もちろん、ごくまれにそのしぐさを目にすることができる者もいます。ですが、そうした目撃者はみんな外国人であり、ただちに強制送還されてしまうのです。このようにして入管しぐさの秘密は守られてきました。

このたび、私は長年の研究の結果、この入管しぐさについてその一端を明らかにすることができました。ぜひご覧ください。

*帰れ返し
外国人が何と言おうと「帰れ、帰れ、帰れ!」

*いやみ受付
相手をげんなりさせればしめたものです。

*命泥棒
一年ぐらい収容しとけば、そのうち音を上げて帰るんじゃない?

*眠らせ薦め
被収容者の精神状態の悪化にはなんといっても睡眠薬。

*押さえ込み殺し
なかなか帰国しない被収容者は集団で押しつぶして窒息させましょうよ。

*うかつあやまらず
人が死んでも過失を認めないのが入管行政の鉄則なり。

*首かしげ
あなたの日本語分かりません。

*おあいにく通知
「不許可」と記されています。

*でたらめことば
申請書は青のペンじゃなくて黒のペンで記入してくださいね!

*チャーター飛ばし
貨物室に放り込まれて強制送還されないだけありがたく思え!

安心で、心豊かな社会を作る入管しぐさ、いかがでしたか?

みなさんもぜひこの入管しぐさを日々の暮らしに生かして、誇らしい日本を取り戻していただければと思います。


現代に生きる入管しぐさ

*「江戸しぐさ」自体、「馬鹿だまし」という江戸しぐさであることを、念のために付け加えておく。