2014/10/24

無駄な日々

入管での収容は無駄なことだと思うわたしが、この間、入管で目撃した無駄なことどもを紹介しよう。

東京入国管理局で面会の受付を済ませ、エレベーターで七階の待合所に上がり、呼び出されるのを待つ。

二人の男が後からやってくる。言葉は分からないが、ペルシア語かそれに似た感じの言語を話している。日本語も上手で、職員とのやり取りもそつがない。二人は面会相手に歯ブラシを差し入れしたいようだ。

入管では差し入れは直接渡すことはできず、面会の前に職員に託さなければならない。

その手続きをしていた男が、不意に日本語でいう。

「歯ブラシが欲しいんだってよ。歯もないのにさ……」

もう一つ。

相変わらず待合所で待っていると、面会を終えたばかりの日本人の男が出てくる。五十代の痩せた男で、調理場でてきぱき働いているのが似合う感じ、いずれにせよ、入管の面会に用のある職業ではない。

男は出てくるなり、職員を捉まえて話しかけた。かすかに震えるその声が、憂いと 苛立ちを押さえつける。

「あの……入っている人と私が入れ替わるなんてことはできないんですかね……」

二つ目終わり。


子宮と仮放免

この間、品川の入管に行った。現在、四人のビルマ難民が収容されているようで、そのうちの三人がBRSAの会員なので、 三人に面会した。

ちなみに、牛久のほうでは今収容されているのは二名程度で、いずれにせよ、ビルマ難民に関して言えば収容されている人はほとんどいないといっていい。2006〜2008年ごろには牛久に百人ものビルマ難民が収容されていたこともあることを考えると、まったく悪くない。

わたしが品川に行ったのは10月22日のことで、冷たい雨が降っていた。

ちょうど外の敷地で、牛久の会の田中さんたちが難民の収容に抗議していた。「難民を収容するな」とか「仕事をさせろ」とか書かれた幕をもっている人には、その難民らしき人もいる。

ビルマ難民以外の難民は、相変わらず、厳しい状況のままというわけだ。

だが、ビルマ国内の政治状況と日本政府との関係によってはまた今後ビルマ難民の収容がぶり返さないとも限らないのだから、他人事とも言えない。

心強いのは、入管の収容に反対する人がたくさんいるということで「全件収容主義と戦う弁護士の会 ハマースミスの誓い」というものもできた。10月28日に設立総会をするそうだ。

わたしは面会したり、仮放免申請することぐらいしかできないが、こうした動きにとても期待している。

わたしが面会したBRSA会員のうちの一人は、12月に出産を控えた妻を残しての収容生活だ。

わたしはこの日、その彼ともう一人の会員のために仮放免申請したが、父親が赤ん坊より先に娑婆に出てこれるかどうかは微妙な情勢だ。


白髪

入管に収容されている女性は、無理からぬことだが、疲れた顔をしているし、また老けて見える。

だから、収容される前に面識がない女性の場合は、面会の度に目にするその草臥れた顔がわたしにとってのその人となってしまい、それで、仮放免などされてしばらく後に会ったときに、あれこんなに若くてきれいで明るい女性だったっけかと思うこともしばしばだ。

男性は化粧をしないので入管の中にいたときとの差はそれほど大きくはない。

しかし、わたしが仮放免の申請をした人に、白髪の男性がいて、何とか釈放ということになった。

その時に彼が言うには「我、常日ごろ白髪染め愛用せり。しかるに入管の中にこれを使うを許されず、頭髪ことごとく白く戻る。今、汝の助けによりて獄を出ることを得たり。帰りて直ちにふたたび染めんとす。汝、我の白髪を見ることこれが最後なり」

どうぞ最後にしてください。

牛久入管内から見た風景。白髪のように白い雲が漂う。

韓国からの電話

外国から電話がかかってくる。

+82と表示されるのでどこからかと調べてみたら、韓国の国番号だ。

韓国には知り合いはいない。

わたしの日ごろ愛国的な言動に反感を持つ韓国人からの嫌がらせの電話か、それともわたしの日ごろ反日的な言動に胸を高鳴らせた韓国人からの応援の電話か。

それとも、韓国海苔の宣伝部長にでも選ばれたか。

何度もしつこく電話がかかってくるので、思い切って出てみた。

牛久の入管に収容されているビルマ難民の女性からだった。

通話料を安くするためのプリペイドカードの番号が韓国経由というわけだった。

彼女は品川での収容期間を含めて一年近く収容されている。そして、わたしはBRSAのメンバーである彼女のために五回目の仮放免申請を行い、その結果を待っているところだった。

入管からの返事はないかどうか彼女は聞き、わたしはこの切実な問いに「ない」と言って切った。

幸いにもそれからしばらくして仮放免許可が下りた。

牛久の入管

2014/09/04

ヘイト大好き!

在日中国人、あるいは在日韓国人、在日北朝鮮人に対するヘイトスピーチが今や花盛りで、これについて人種差別だ、民族差別だと怒っている人がいるが、それは違う。

たとえば、このようなヘイトスピーチを行う人々が、首尾よく日本から、在日中国人、在日韓国人、在日北朝鮮人のみならず、すべての在日外国人を排斥することに成功したとしたら、所期の目的は達成したとしっかり満足するだろうか? もはやそのようなことを言うのはやめて愛のみを説き出すとか?

到底ありえない。

今度は、たとえばそれが東京の人だったら、在京関西人に対するヘイトスピーチを今度はおっぱじめる、これ間違いない。

そして、関西人がいなくなれば、今度は、まず群馬県民を血祭りに上げることだろう! 哀れなグンマー亡き後は、茨城県民、埼玉県民、神奈川県民、千葉県民と死屍累々だ。

その次は二十四区から市のヤツらを追い出せとなる。

多摩とか日野とかの野蛮人が駆逐された後は、区と区の、さらに町と町、丁と丁、番地と番地同士で激しいヘイトスピーチが展開されることは疑いない。

しかも、人間を区別するのは場所だけではない。我が国では職業差別はもう伝統だ。女性差別は骨の髄までだ。家柄で群がるのはすでに習性だ。出身大学を聞くと涎を垂らす条件反射。ヘイトの種にゃあ事欠かない。

今や犬だって排斥されつつある。言葉が通じないので、いきなり実力行使だったが。

そう、人種とか民族とかそんなんじゃないんだ。

もうそもそも誰かが嫌いだから、憎んでいるからヘイトスピーチに精を出してるんじゃあない。ただヘイトスピーチそのものが好きなんで、その対象なんか何だっていいというわけ。

だから、在日中国人、あるいは在日韓国人、在日北朝鮮人に対するヘイトスピーチを行う連中は、実際のところ、これらの人々を嫌いってわけじゃないんだ。精いっぱい嫌いになろうとしてるけど。むしろ好きかもしれない。彼らのおかげで大好きなヘイトスピーチに打ち込むことができるのだから。

それくらい連中にとってはヘイトは甘い。

チョコといっしょでやめられん。

大久保通り

大久保で韓国料理を期待していたわたしをサイゼリヤ大久保店に連れていってくれたカレンの友人の話だが、わたしは彼にいろいろ話を聞く必要があったので、その後もたびたび彼とこの店に行った。

一昨日も行った。

ピザ食べた。

で、近くにある彼の家にも連れていってもらった。

それは一軒家で、彼と四人のビルマ人がシェアしてる。しかも、その四人のうち三人はBRSAの会員だ。

わたしが帰ろうとすると、カレン人の友人と一人のBRSAの会員が駅まで送ってくれた。

大久保通りまで出れば後はわかるので断ったのだが、結局、二人は大久保駅どころか新大久保駅まで見送ってくれたのだった。

三人で歩いていると、向こうからよく知るカレン人の女性が歩いてくる。彼女の家は近くにある。わたしは少し立ち話をして別れる。

もう少し大久保通りを進むと、今度は別の知り合いが自転車に乗ろうとしてた。彼はBRSAの役員の一人だ。

二人の友人たちが「たくさん会いますね」と驚く。

ハハハ、と笑いながらわたしは思う。これが三人になったら面白いぞ。

大久保駅を越えてしばらくすると、ホントにもう一人別の知り合いが歩いてきた。

カチンの人だ。しかし、わたしには気がついていない。向こうが気がつかなければわたしは声などかけないが、なにせ前人未到の記録がかかっている。

「お久しぶりです!」

珍しく大声を上げたらドギマギさせてしまった。なんとも後味の悪いチャレンジとなった。

カレン人のおごり

カレン人の友人が飯をご馳走してくれるというので、大久保に行った。

彼はなかなか高級な焼き肉屋で働いており、わたしは以前その店でもおごってもらっていた。

駅に着くと、待っていた彼が「ちょっと近くにいいイタリアンがある」という。

で、連れてってくれたのがサイゼリヤ。

いいえ、おごってもらう立場です。何も言うことはありません。いいレストランです。ですが、その店、ウチから歩いて五分のところにもあって、子どもを連れてしょっちゅう行くんです……。

カレン人というのは奇策を弄したり、変に気取ったりすることを好まない人々だ。この民族にとっては日常的であるということが最上の価値を持つのである。

ゆえに、友人をもてなすのに、日本人がたまにするように奮発して普段行かないようなレストランに行くなんてありえない。なによりも馴染みの店に連れて行くのが最良のチョイスなのだ。

しっしかし、大久保ですぜ? あの韓国料理屋のひしめく!

あれ、変だな、なんだかピザがチヂミに見えてきやがった……。