チン語といってもいろいろあって,しかもお互いに理解できないほど異なっている。
日本のチン人に多いのはチン州のティディムを中心とするチン語(ゾミとも言われる),同じくチン州のハーカーを中心とする言語(ライとも呼ばれる)の話し手で,その他にもミゾという言語を話す人も少数だがいる。
チン民族のリーダーの1人であるタン・ナンリヤンタンさんは今はアメリカにいるが,1990年からずっと日本にいた人だ。彼は1991年に,ゾミ語の教本を日本で自費出版したことがある。
元になったのはアメリカのチン人の言語学者が執筆したもので,チン民族の文化を守るためにタンさんと牧師たちが協力して出したのだという。
全編ゾミ語で書かれ,ゾミ語をまったく知らない人というよりも,ゾミ語話者の教育を目的としているのは明らかだ。イラストも豊富だ。2部構成で160ページある。
しかし,今,この本はタンさんのところに山のように積まれている。
どうしてかというと,本の出版者の中にタンさんの名前があるせいで,ビルマに持ち込むのはヤバいということになったのだという。政治的亡命者であるタンさんとともに名前を記された人々はもしかしたら深刻な危険にさらされるかもしれなかった。
そんなわけで,タンさんたちの試みは無駄になった。
先日アメリカにいるタンさんと話したさい,この教本をどうするかについて尋ねた。ビルマが変わった今ならば,持ち込むのは問題ないだろう。
だが,タンさん,「ああ,もう今はこの本よりももっといい教科書がいくつもあるよ!」