だが、チン人はビルマ連邦からもらうことだけを期待している人々ではない。物質として与えることができるものは少ないかもしれないが、チン人はそれ以上に重要で、やはり「公正」に関わりのある貢献を将来の民主化されたビルマ連邦のために果たそうと営々と働いている。そのひとつが、将来のビルマ連邦におけるチン州憲法の準備活動である。
貧しい土地で生きるチンの人々は人を大事にする。教育を大事にする。それこそがチン州の「資源」だ。今や世界中に難民として向学心溢れるチン人が散らばり、それぞれの場所で知識や知恵を吸収しながら、チン民族とビルマの解放のために日々活動している。タンさんも理事を務めるチン・フォーラム(チン民族の国際NGO)が2008年に出版した『チンランド憲法草稿第5版(The Fifth Initial Draft of Chinland Constitution)』は、これらのチン民族の努力が集積された実例である。
この州憲法草案こそ、チンの人々が求めてやまない公正とは、いかなるものであるかについての最良の表現なのだが、その意義はチン州(もしくはチンランド)に住む人々のみに限られるものではない。まず、この州憲法草案は、ビルマ連邦で自分たちチン人がどのように生きたいかを、明確・具体的に語っているという点で、非ビルマ民族のさらなる抑圧と消滅をもたらすといわれている2008年の軍事政権の憲法に対する強力な反論となっている。さらに、五度も練り直されたこの草案は、他の非ビルマ民族の州憲法に比べてもっとも考え抜かれたものであり、将来のビルマ連邦の諸憲法(連邦憲法と各州憲法)を考える上で、現時点では最良の基準のひとつとなっている。