2004年のある月例会議の後、タンさんがぼくをお茶に誘った。話があるというのだ。高田馬場の駅前のマクドナルドの二階に座ると、タンさんはこんなことを言った。
「あなたは今カレン人のことばかりやっているが、それだけでは不十分だ。これからはほかの民族のことも考えて活動したほうがいい」
実をいうと、その頃ぼくはタンさんについて悪い噂を聞かされていた。このチンのオヤジは自己中心的で、自分の民族のことしか考えていないというのだ。
だから、タンさんがそう語ったとき、ぼくはこの言葉が別様に解釈できることに気がつかずにはいられなかった。タンさんはこんなふうに考えていたかもしれないのだ。「このアホ面の日本人、ちょいと利用できそうだぞ。こいつをカレン人から奪って、チン人のためにこき使ってやろう……」
ぼくは、テーブルの向こうで語り続けるタンさんの表情や口調に注意を払い、ぼくのことをアホ面とあなどっていないか吟味した。やがて、ぼくはタンさんが自分の民族を特別扱いせずに、他の民族のことも同じように考慮して語っているということに気がついた。彼はできるだけ公正であろうとしているのだった。