2013/07/22

Monkに文句を言うと仏僧だけに物騒だ

英文ニュース誌のTIMEの2013年7月1日号,とりわけその表紙は発売前からインターネットに出回り,ビルマ社会にかなりの憤激と動揺を引き起こした。

それはひとりのビルマの僧侶の顔を写したもので,温和とはほど遠い冷たい眼差しが印象的だ。

その顔の下にはメインとなる記事のタイトルが記されている。「The Face of Buddhist Terror(仏教徒テロルの顔)」。記事を読まなくても何が書いてるのか容易に想像がつく。仏教徒とテロリズムの関係を論じているのである。

表紙となった僧の名はウィラドゥ師(Wirathu)。強固な反ムスリム主義者として知られ,ビルマ国内でかなりの崇敬を集めている。もっとも,TIME誌の記事で取り上げられているのは,ビルマだけではない。スリランカ,タイなどの上座部仏教が主流となっている国で,ムスリムに対する警戒・敵意・反発・攻撃が増加しつつある現状を扱ったものだ。

論調としては,仏教をあげつらうというよりも,排外主義であれ狂信主義であれ,こうしたものはどの宗教に起こりうるもの,という立場で書かれ,とくに不公平な印象は受けない。

しかし,ビルマの仏教徒は異なる見方をした。これらの人々は仏僧と「Terror」という文字が表紙で並置されているというだけで仰天し,TIME誌が仏教徒に対するネガティブ・キャンペーンを行っていると非難したのである。

ビルマではロヒンギャをはじめとするムスリム集団が激しい弾圧にさらされているが,この問題に関してビルマの仏教徒はかねてから,国際社会がムスリムの肩ばかり持つのに不満を感じていた。テロリストなのはムスリムなのに,どうしてわれわれの方が責められるのか,と。中には,世界のムスリム・コミュニティによる陰謀論を口にするものもいるほどだ(世界中のムスリムが陰謀を仕掛けられるほどに一致団結しているのなら,イスラム世界はもっと平和になっているだろう)。

そのようなわけで,ビルマの仏教徒たちはTIME誌の記事についても「またか」と過剰に反応したのである。それも,記事の内容というよりも,国際社会が自分たちに向ける「理不尽」な非難に逆上したのだ。

もっとも,これはビルマのすべての仏教徒の意見ではないし,またウィラドゥ師への支持自体も全国的なものでもない。わたしが聞いた話では,彼を批判する者もいるし,また「少々おかしいのでは」と呆れる者もいる。

しかし,ウィラドゥ師はさておくとしても,この記事,特にタイトルそのものが,ビルマの宗教を巡る現状の痛いところをついたものであることは,この号のTIME誌がビルマ国内で発禁となったことからも容易に察することができよう(スリランカでも同様に発禁となった)。

さて,この問題に関してFacebook上ではさまざまな画像が流れたが,そのうちのいくつかをここに紹介しよう。

 右が問題の表紙。
これと比較されているのがビルマ仏教を好意的に扱った過去の号のTIME誌。
昔はあんなに共感してくれたのにどうして? という感じだが,
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず,というのもまた真実。

記事を書いた記者の顔写真をつかってやり返す事態に。
「ムスリム偏向メディアの顔」とタイトルももじってある。
下の1文は「いかにしてムスリムから金をもらった記者たちが
世界中に仏教徒に対する暴力を煽り立てているか」とあり,
さらに顔写真の横に
「ムスリムから金をもらったTIME記者Hannah Beech」
と小さく記す念の入れよう。

 これも上と同じ。
「嘘つき過ぎちゃった!
嘘つきジャーナリストの顔
Hannah Beech
仏僧について嘘を書けり」とある。
しかしTIME誌表紙のコラ作りたがらせ力は異常といえよう。

ひとコママンガ。
今回の記事は,アメリカを攻撃しようとしているムスリム・テロリストの目を
ビルマに向けさせるためにアメリカが仕組んだ一件だとする内容。
 だが,この素朴なメディア陰謀論を嘲笑するのはよそう。
日本では与党幹部がこれに取り憑かれている始末なのだから。