難民申請中のビルマ人Aさんが、ある事情から急に引っ越ししなくてはならなくなった。
仮放免の身なので、なかなか新居が見つからない。そこで、すでに在留許可を得た友人のBさんの名前で借りることにした。
問題はお金だ。家探しに時間がかかったこと、そしてまぎれもなく本人がぐずぐずしていたため、契約を成立させるには、翌日までに11万円払わなくてはならない、さもなければ住むところを失う、そんな状況だった。
そこで、Bさんがぼくに電話をかけてきた。とりあえず立て替えて銀行から送金してくれないか、と。
「で、その人は今いくら持ってんの」
電話口で彼がAさんと話しているのが聞こえる。
「5万円だって」
6万円貸すわけか、とぼくは考える。ぼくはビルマの人々に貸したまま返ってこないお金のことを思う。総額18万。そのうち5万円と6万円を貸した二人のカレンの人は、ぼくのことをスパイだなんだとさんざん触れ回っている。そうすれば借金も帳消しになるかも、という短期的かつ楽観的な経済見通しがあるのだろう。もっとも、こちらは長期的かつ悲観的に考えるほうだ。
それはともかく、Bさんは信頼のできる人だ。それに、損害を被るとしたらBさんのほうがはるかに大きい。なにしろ、彼はAさんの家賃の責任も負わなければならないのだから。
また、ぼくはAさんのことも知らないではなかった。独立して生計を立てている人だ。そんなわけでぼくは踏み倒される可能性は低いと判断し、11万円を送金し、そのうちの6万円を貸すことにした。
もっとも、送金を済ませたぼくはすぐにBさん電話して、こう要求せずにはおれなかった。
「その5万円をすぐにAさんから奪い取るんだ!」
それからしばらくして、ある日本人と話すことがあった。いろいろとビルマ難民の面倒を見ている人だ。たまたまAさんの話題が出た。その人が言った。「Aさんなら、この前電話をかけてきて、引っ越しでどうしてもすぐにお金が必要だからというから、貸したよ、5万円!」
もう爆笑ですよ。