ルネ・カーワンがアラビア語原典から翻訳したという『策略の書』(小林茂訳、読売新聞社)に、アッバース朝2代目のカリフ、アル・マンスールの次のような逸話が載っている。
アル・マンスールはクーファ(イラクの町)の男ひとりずつに銀貨5枚を分配するように命じた。これにより、この町にいる男の正確な数を知った彼は、次のように命じたのだという。「さて、今度は男ひとりずつから租税として銀貨40枚を取れ」と。
「子ども手当」について考えているうちにこんな逸話を思い出した。
もちろん、この子ども手当の後に、政府がこのアル・マンスールと同じことをするとは思わないが、せっかく広い範囲でこの政策を実施するのだから、日本に今どれくらいの外国籍の子どもがいて、どんな状況にあるか、というような統計ぐらいはとったほうがいいのではないか。
これらの子どもたち(ビルマ難民の子どもたちももちろん含まれる)もまた、これからの日本を担っていく人々なのだから。
2010/04/09
送金偽装詐欺事件(終)
5)軍事政権に生きる人々ならではの理由
被害者たちからだまし取られたお金はすべてビルマに送金され、加害者の関係者が握っているのだという。
被害者たちが事件を表沙汰にすることで恐れているのは、日本の警察が動き出したことにより、ビルマの政府も動きだし、そのお金が結局すべて軍事政権の手に渡ってしまう、という可能性である。
何年も働いてきたお金が憎むべき敵に渡ってしまう悔しさは何にも代え難い、ということである。
また、刑事事件となって加害者女性が日本で有罪となったら、ビルマに強制退去させられる可能性が高いという。それこそ、この加害者の思う壷だ。なにしろ送還されたビルマでは優雅な生活が待ち受けているのだから。
そんなわけでこの女性は「警察に訴えるなら訴えてみろ、刑務所も強制退去も怖くない!」と開き直っているのだとか。
もっともぼくはそんなに上手くいくとは思ってはいない。ビルマには彼女よりもっと悪い人がひしめいているのだから。
いずれにせよ、ビルマ軍事政権では悪い人ほど栄えるということがこの事件からもよくわかるのである。
被害者たちからだまし取られたお金はすべてビルマに送金され、加害者の関係者が握っているのだという。
被害者たちが事件を表沙汰にすることで恐れているのは、日本の警察が動き出したことにより、ビルマの政府も動きだし、そのお金が結局すべて軍事政権の手に渡ってしまう、という可能性である。
何年も働いてきたお金が憎むべき敵に渡ってしまう悔しさは何にも代え難い、ということである。
また、刑事事件となって加害者女性が日本で有罪となったら、ビルマに強制退去させられる可能性が高いという。それこそ、この加害者の思う壷だ。なにしろ送還されたビルマでは優雅な生活が待ち受けているのだから。
そんなわけでこの女性は「警察に訴えるなら訴えてみろ、刑務所も強制退去も怖くない!」と開き直っているのだとか。
もっともぼくはそんなに上手くいくとは思ってはいない。ビルマには彼女よりもっと悪い人がひしめいているのだから。
いずれにせよ、ビルマ軍事政権では悪い人ほど栄えるということがこの事件からもよくわかるのである。
2010/04/07
送金偽装詐欺事件(6)
4)恐怖の中に育った人々ならではの理由
軍事政権の暴力の中で生きてきた人々のため、脅しには非常に敏感である。彼らは、脅しが脅しでは終わらないということを身をもって実感しているのである。
詐欺をした女性の弟が姉に手を出したら殺すという考えをもっていると聞いた被害者は、ただちに警察に訴え出ることを諦めた。自分の身ばかりではなく、子どもや、故国の家族に危害が及ぶのを恐れたのである。
この脅しがなされたのは日本であり、こんな脅しが日本でまかり通るのは日本人として不愉快だが、在日ビルマ社会にはそれ独自のリアリティがあるのである。
面白いのが、この弟は決して「殺してやる」とはいってはいないことだ。なんでも「俺は無性に人が殺したい〜」と拳を固めながら言っていたそうだ。
このように言質を取られないようにやるのがビルマ社会の脅しや中傷の常套であり、これはぼく自身身をもって体験している(もっともこれは日本社会でも変わらないかもしれないが)。
軍事政権の暴力の中で生きてきた人々のため、脅しには非常に敏感である。彼らは、脅しが脅しでは終わらないということを身をもって実感しているのである。
詐欺をした女性の弟が姉に手を出したら殺すという考えをもっていると聞いた被害者は、ただちに警察に訴え出ることを諦めた。自分の身ばかりではなく、子どもや、故国の家族に危害が及ぶのを恐れたのである。
この脅しがなされたのは日本であり、こんな脅しが日本でまかり通るのは日本人として不愉快だが、在日ビルマ社会にはそれ独自のリアリティがあるのである。
面白いのが、この弟は決して「殺してやる」とはいってはいないことだ。なんでも「俺は無性に人が殺したい〜」と拳を固めながら言っていたそうだ。
このように言質を取られないようにやるのがビルマ社会の脅しや中傷の常套であり、これはぼく自身身をもって体験している(もっともこれは日本社会でも変わらないかもしれないが)。
2010/04/06
送金偽装詐欺事件(5)
3)キリスト教徒ならではの理由
カチン人の大多数はキリスト教徒で、つねに「良きキリスト教徒ならば我慢して相手を許しましょう」という倫理的立場をとる。この事件にさいしても同様である。
もちろん、これは特殊なキリスト教というべきで、日本のキリスト教徒の中には「こうした犯罪が繰り返されないように、率先して警察に訴えて事実を明らかにするのが務め」と考える人も多いに違いない。
カチン人のキリスト教徒信仰にはよいものもたくさんあるが、この妙に抑圧的な態度のように、有害なものもないわけではない。
在日カチン人の牧師はかつてこんなふうにいっていたそうだ。「(ビルマ軍事政権の)政府に反抗することは、神に逆らうことです」
しかし、この牧師も現在は難民認定申請をしているという。
カチン人の大多数はキリスト教徒で、つねに「良きキリスト教徒ならば我慢して相手を許しましょう」という倫理的立場をとる。この事件にさいしても同様である。
もちろん、これは特殊なキリスト教というべきで、日本のキリスト教徒の中には「こうした犯罪が繰り返されないように、率先して警察に訴えて事実を明らかにするのが務め」と考える人も多いに違いない。
カチン人のキリスト教徒信仰にはよいものもたくさんあるが、この妙に抑圧的な態度のように、有害なものもないわけではない。
在日カチン人の牧師はかつてこんなふうにいっていたそうだ。「(ビルマ軍事政権の)政府に反抗することは、神に逆らうことです」
しかし、この牧師も現在は難民認定申請をしているという。
2010/04/05
送金偽装詐欺事件(4)
今回の事件の被害者の大多数はカチン人であるが、チン人とカレン人、そしてビルマ人も被害にあっている。
そのビルマ人の被害者がカチン人の有力者のところに行って、怒りをあらわにして対応を迫ったのだという。
カチン人は(こんなことは誰にもいわないが)ビルマ人が本当に恐ろしい。だから、ビルマ人が怒ったら凄惨な復讐が待ち受けていると信じている(これはあくまでも非ビルマ民族の目から見ての話だ)。
そんなわけで、カチン人で話し合って、このビルマ人には自分たちで立て替えてお金を返したのだという。
「ビルマ人だけお金が返ってきて、非ビルマ民族には一銭もかえってこない、こんなことってありますか?」とこの話をぼくにしてくれた人はいったのである。
そのビルマ人の被害者がカチン人の有力者のところに行って、怒りをあらわにして対応を迫ったのだという。
カチン人は(こんなことは誰にもいわないが)ビルマ人が本当に恐ろしい。だから、ビルマ人が怒ったら凄惨な復讐が待ち受けていると信じている(これはあくまでも非ビルマ民族の目から見ての話だ)。
そんなわけで、カチン人で話し合って、このビルマ人には自分たちで立て替えてお金を返したのだという。
「ビルマ人だけお金が返ってきて、非ビルマ民族には一銭もかえってこない、こんなことってありますか?」とこの話をぼくにしてくれた人はいったのである。
送金偽装詐欺事件(3)
この事件で被害者たちが泣き寝入りを(今のところ)しようと決断した背景は次のようなものだった。
1)在日外国人ならではの理由
被害者となった人のほとんどは難民認定申請後、何らかの在留資格を得た人々だが、難民申請以前には「不法滞在」者だったという経歴を持つため、日本の警察に対してはかかわりたくない、という気持ちあいかわらずもっている人がいる。また、事件を警察に訴えることでかえって、自分たちが逮捕されたり、滞在資格を取り上げられたりするのではないかというおそれをもつ人も多い。
そもそも今回の事件も故国への「不正」な送金という問題が絡んでおり、この後ろめたさも被害者をためらわせている。
2)非ビルマ民族ならではの理由
今回の事件でお金をだまし取った人はカチン人であり、また被害者もカチン人が多かった。そのため、この事件を表沙汰にすることは、「カチン人の恥」だという意識が被害者の間で見られる。
これはカチン人が被っている民族的差別を前提としなければわからない。つまり、噛み砕いていえば「カチン人の恥」というのはこんな意味だ。「ただでさえ、多数派のビルマ人から差別され、悪意ある先入観で見られている我々のイメージをこれ以上悪くすることはできない」
これに関して面白いエピソードを聞いた。
1)在日外国人ならではの理由
被害者となった人のほとんどは難民認定申請後、何らかの在留資格を得た人々だが、難民申請以前には「不法滞在」者だったという経歴を持つため、日本の警察に対してはかかわりたくない、という気持ちあいかわらずもっている人がいる。また、事件を警察に訴えることでかえって、自分たちが逮捕されたり、滞在資格を取り上げられたりするのではないかというおそれをもつ人も多い。
そもそも今回の事件も故国への「不正」な送金という問題が絡んでおり、この後ろめたさも被害者をためらわせている。
2)非ビルマ民族ならではの理由
今回の事件でお金をだまし取った人はカチン人であり、また被害者もカチン人が多かった。そのため、この事件を表沙汰にすることは、「カチン人の恥」だという意識が被害者の間で見られる。
これはカチン人が被っている民族的差別を前提としなければわからない。つまり、噛み砕いていえば「カチン人の恥」というのはこんな意味だ。「ただでさえ、多数派のビルマ人から差別され、悪意ある先入観で見られている我々のイメージをこれ以上悪くすることはできない」
これに関して面白いエピソードを聞いた。
送金偽装詐欺事件(2)
在日ビルマ難民の間で起きている1億円を超える送金偽装詐欺事件であるが、この事件の真相についてはぼくは十分に把握してはいないし、またこれが今後どうなるかもわからない。先週聞いた話によると、被害者たちは「泣き寝入り」という選択をしたとのことで、これが公の場に出るかどうかはまだ不透明だ。
ぼくがここで関心があるのは、この事件からみえてくる、軍事政権下で生きてきた人々の心の動きだ。
比較的安心できる社会に生きる日本人ならば、こうした事件の被害者になった場合、警察に訴えでたりして事件を「表沙汰」にしたり、弁護士などの仲介役を立ててお金を回収しようとしたりなどいろいろ打つ手だてはある。「被害者の会」を結成して交渉にあたるという選択肢だってある。
もちろんこれらは以前は日本では普通ではなかったかもしれないが、今ではそれほど特別なこととは思われない。
だが、今回の被害者となった人々は、そうしなかった。それには政治状況・民族・宗教・難民などからもとらされるさまざまな特殊な要因が働いていたのである。
ぼくがここで関心があるのは、この事件からみえてくる、軍事政権下で生きてきた人々の心の動きだ。
比較的安心できる社会に生きる日本人ならば、こうした事件の被害者になった場合、警察に訴えでたりして事件を「表沙汰」にしたり、弁護士などの仲介役を立ててお金を回収しようとしたりなどいろいろ打つ手だてはある。「被害者の会」を結成して交渉にあたるという選択肢だってある。
もちろんこれらは以前は日本では普通ではなかったかもしれないが、今ではそれほど特別なこととは思われない。
だが、今回の被害者となった人々は、そうしなかった。それには政治状況・民族・宗教・難民などからもとらされるさまざまな特殊な要因が働いていたのである。
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